【べらぼう】松平定信(井上祐貴)の悲惨な失脚劇、ロシア船来航との関係は?
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鷹橋 忍
横浜流星さんが主人公・蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう/蔦重)を演じる、2025年NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめものがたり)〜」。当時の文化や時代背景、登場人物について、戦国武将や城、水軍などに詳しい作家・鷹橋 忍さんが深掘りし、ドラマを見るのがもっと楽しくなるような記事を隔週でお届けします。今回のテーマは、松平定信の失脚とロシア船の来航です。
NHK大河ドラマ『べらぼう』第42回「招かれざる客」、第43回「裏切りの恋歌」が放送されました。第43回では、井上祐貴さんが演じる松平定信(さだのぶ)が失脚し、老中職を解かれました。
今回は松平定信の解任と、ドラマの中でもたびたび言及されるロシア船の来航を取り上げたいと思います。
ロシア船の来航
寛政4年(1792)9月3日、ロシア使節のアダム・ラクスマンが率いるロシア船が、蝦夷地の根室(北海道根室市)に来航しています。ラクスマンは国交を開き、通商を行うことを求める書状を携え、献上品も持参していました。
また、ロシア船には大黒屋光太夫(だいこくやこうだゆう)ら合計3名の日本人漂流民が同乗しており、ラクスマンは彼ら日本人漂流民を、幕府に直接送り届けるように命じられたといいます。そのためラクスマンは、江戸への回航を求めました。
同年10月4日、現地から報告を受けた、えなりかずきさんが演じる松前道廣(みちひろ)は幕府に書面を送り、この件を知らせています。書面は10月19日に幕府に届き、対応が議論されました。この時に対応を主導したのは、老中首座である松平定信です(岩﨑奈緒子『〈ロシア〉が変えた江戸時代 世界認識の転換と近代の序章』)。
ロシア船を江戸に回航させたくない理由は?
ラクスマンは江戸への回航を望んでいましたが、幕府は彼らを江戸に入れたくはありませんでした。なぜなら、当時の江戸は無防備といっていいほど、海の軍備が整っていなかったからです。
丸裸同然の江戸湾にロシア船を入れ、もし交渉が決裂して武力行使に踏み切られたら、江戸は大混乱し、幕府の権威に著しく傷が付きます。はっきりと書き残されているわけではありませんが、松平定信はそんな事態を恐れたのではないかとみられています(藤田覚『松平定信 政治改革に挑んだ老中』)。
ですが、むやみに江戸来航を拒めば、ロシアとの紛争を招きかねません。そこで、ラクスマンらの江戸来航を阻止し、角を立てることなく帰国させるために策が練られました。
