50代は「お金で時間を買う」、60代は「時間を楽しむ」。黒部移住で変わった、60代ひとり暮らしの実感
暮らしを「つくる」ことがとても楽しい
大阪にいた頃の私なら、こうはしなかったでしょう。
「バジルトーストが食べたいなぁ」
それなら、「あのカフェがおいしそうだったよ。食べに行こう」となっていたはずです。
お金を出せば、欲しいものはすぐに手に入る。それはとても便利な暮らしでした。
それに、当時の私には時間がありませんでした。50代は、本当によく働いたと思います。もう一度、同じように働けるかと聞かれたら、「絶対に無理」と断言できます。
仕事に追われ、時間に余裕がなければ、心を失ってしまいます。それが「忙しさ」です。
だから、お金を払って時間を買っていました。料理に時間をかけるより、外で美味しいものを食べる。アレンジの教室で癒しの時間を体験する。おしゃれして、デパートで買い物する。ホテルのラウンジで1杯2,000円のコーヒーを飲む。それはそれで、当時の私には必要な暮らし方だったのです。
けれど、60代になって黒部へ移住し、時間の使い方が変わりました。
種を蒔き、育つのを待つ。収穫して、どう食べるか考える。うまくいかなければ、またやってみる。
レモングラスとミントを育てて、自分で摘んだ葉でハーブティーを淹れることも、こちらに来てから覚えた楽しみです。これをホテルで飲んだら、いったいいくらするだろう。そう考えると、自分で育てて味わえることまで、なんだか贅沢に思えてきます。
以前ならお金を出して手に入れていたものを、今は時間をかけて自分でつくっている。
若い頃の私は、より多くを得るためには、より多く働かなければと思っていました。都会にいると、新しい商品やサービスの広告が次々と目に入ります。「あれも欲しい」「これも体験してみたい」と、知らず知らずのうちに欲しいものが増えていきました。
黒部では、そうした情報に触れる機会がずいぶん減りました。
その代わり、目の前には壮大な立山連峰があり、少し足を延ばせば静かな富山湾があります。そして、小さな畑には、自分が蒔いた種から育った野菜や花があります。
もちろん、都会の便利な暮らしも好きです。
でも今の私は、豊かさの物差しが少し変わったのかもしれません。
50代は、お金を使って時間を手に入れてきました。
60代の今は、時間を使って暮らしをつくることが楽しい。
すぐに手に入らないから、待つ。知らないから、やってみる。失敗したから、もう一度つくる。そんな一見遠回りな時間こそ、今の私には、お金では買えない贅沢なのだと思っています。
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