朝ドラ【ブラッサム】化粧が後押しした“初恋”と、珠(石橋静河)を待ち受ける理不尽な結末
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田幸和歌子
「うち、人を好きになっただけじゃ」
嫁いだ相手の享一には抱かなかった感情、その相手のことで頭がいっぱいになり、楽しい気持ちになれる存在。化粧することへの理解から始まり、そこから共感へとつながり、やがて特別な存在となり、「好き」という言葉をしたためるほどになっていく。「化粧と、初恋」そのままに、これが珠の初恋だ。この「好き」を記した紙を教室で落とし、生徒のひとり、次郎がこれを拾い、これは何て書いてあるのかと、まさかの島村に渡してしまう。はじめは無言だった島村だが、職員室でこう一言告げた。
「胸に、くるものがありました」
なんともストレートな恋愛展開である。そこから急速に親密になっていく二人、珠の思いもどんどん強くなり、熱を出した島村の見舞いのため、自宅を訪れ雑炊を作ってあげたりするようにもなる。看病に際して、
「ただ会いたかったんじゃと思います」
「僕もです」
という、思わずにやけてしまいそうなやりとり。
宇野千代本人はこのエピソードのもととなった同僚との恋を「熱病のような恋」とのちに書き記しているが、この熱病のような思いは簡単に止めることはできない。外は雨が降っている。それを理由とし、そのまま二人は朝までそのまま過ごす。幼いころは父に命じられるままに雨の中裸足でカナリアの餌を買いに行かされたりしたことを思えば、その雨を帰れない理由とすることがこの初恋の熱量の高さをより実感させてくれる。
しかし、この朝帰りが近所の人の噂となり、やがて学校にも伝わる。これによって「ふしだら」と断ぜられた珠は謹慎ののち解雇を命じられる。しかも、処分されたのは珠ひとりで、島村はこれまでと変わらず教壇に立ち続けている。そこにもやはり当時の男女の大きすぎる格差が横たわっていた。
本当の気持ちが知りたい、珠はそう書いた手紙を島村に送った。しかし、島村からの返事には、冷たい言葉が書かれていた。
「ごめんなさい。あなたとの関係は間違いでした」
これは「本当の気持ち」なのか。納得できない珠は結局直接島村のもとへと会いにいくが、そこでもやっぱりなかったことにしてくれと言われ、最後には「あんたのことは何とも思うとらん」「帰れ」と、はっきりと心を通わせていたはずだったこれまでとは真逆のような冷たい態度であしらわれてしまう。
理不尽な思いの中終わった初恋、そして教職。出会わなければよかったのかと悩みつつも、
「うち、人を好きになっただけじゃ」
こう言い放つ強さは、珠の人格をよく感じさせてくれる。
「熱病のような恋」は、この先続く長い人生に大きな影響を与えた経験となったはずだ。
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