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田幸和歌子の「今日も朝ドラ!」

「なにわバードマン」の代替わりが週半ばの水曜日放送という儚さ・美しさ。それが「舞いあがれ!」のスタンスそのもの

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田幸和歌子

舞ちゃんはどうなる⁉︎ わくわくしながら朝ドラを見るのが1日の始まりの習慣になっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!

東大阪で生まれたヒロイン岩倉舞(福原)が、長崎・五島列島に住む祖母や様々な人との絆を育みながら、パイロットとして空を飛ぶ夢に向かっていくNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の6週目。

舞の実力に合わせて機体を最終改良し、舞の減量も成功、いよいよ「スワン号」の記録飛行本番。

全員で飛ばす瞬間の高揚感と、琵琶湖の上を船で追いかけ、無線で励まし、指示出しする由良(吉谷彩子)と刈谷の頼もしさ、そこから始まる舞の暑さや脚の重さとの苦しく孤独な闘い……同じく1回生の日下部(森田大鼓)が施した工夫でコックピットの中に風が通り、再び上昇したものの、結果は目標には届かず、約10分、約3.5kmの距離で飛行は終了。

海に浮かぶ、脆く崩れた薄い発泡スチロールのフェアリングの破片が、「人間の力で飛ぶ」奇跡を、説明不要に見せてくれている。

青春が終わってしまった。と言っても、青春の甘酸っぱい思い出の真ん中にあるのは、恋愛じゃない。ただ飛行機が好きで、人力飛行機を安全に、かつ少しでも遠くまで飛ばしたくて、就活など将来に活かせるわけでもなく、それでモテるわけでもなく、何の打算もなく、ほんの数分の瞬間のために膨大な時間を費やしてきた「なにわバードマン」たちが、ただ美しく、眩しく、羨ましい。

こんな風に「好き」という気持ちだけで、同じ思いを持つ者同士が一つことに真剣に打ち込む瞬間は、人生の中でもそうそうない。なんなら、一度もなかったかもしれない。

しかも、前日には部員たち全員で、イカロスコンテストの書類落ちから始まり、由良のケガ、刈谷の引退宣言、素人パイロット・舞の誕生など、口々に青臭く「奇跡」を語り合っていた彼らが、終わってからは円陣を組み、舞を胴上げし、すぐに代替わりして去っていく。しかも、それが週半ばの水曜放送という儚さ、美しさは、『舞いあがれ!』のスタンスそのものでもあるだろう。

と同時に、舞の青春との別れは、現実の夢に向かうための助走期間につながっていく。次のパイロットに由良が選ばれたことで、空を飛んだ時の思いが忘れられない舞は、なにわバードマンを休部して航空学校に行くための勉強とバイトを始めるのだ。その夢に対して真っ先に賛成してくれたのが、ジェット機のパイロットになる夢を持ちつつ、身長158センチ以上という基準に満たないことから諦めた由良だということは、胸に迫るものがある。また、なにわバードマンから旅客機のパイロットが出たら面白いと肯定してくれる仲間たちも嬉しい。

その一方で、本作ではシビアに描かれているのが、お金と生活の問題だ。

自分のバイト代でなにわバードマンの活動費を払い、ロードバイクも買い、航空学校に行きたいことを、後ろめたさから親に言い出せず、バイトして貯金を始める舞。楽しかったなにわバードマンの日々とは違い、現実の将来を見据えた、プラスに向かう前向きな努力だ。

また、かつては倒産寸前まで行ったねじ工場を、特殊ねじを作るという挑戦を機に建て直し、大きくしていった父・浩太(高橋克典)も、また新たな挑戦に目を輝かせている。

一方、彼らとは対照的に、舞の兄・悠人(横山裕)は家では舞の夢を肯定はしないものの、否定もせず、面白がってくれている。しかし、仕事観において父と全く分かり合えずにいる。苦労してきた父を見て育ったからこそ、合理的に「金を稼ぐ」ことに主眼を置き、その目標に向かって努力し、勉強してきたわけだが、そんな自分に対する迷いもありそう。

そして、幼馴染でしっかり者の久留美(山下美月)は、仕事が長続きしない父(松尾愉)を支えつつ、次年度の授業料免除の特待生をキープ。しかし、父はまたケガで仕事を辞めてしまい、頑張っても頑張っても、浮上の糸口が見えない。

また、貴司(赤楚衛二)は「普通」になじめず、仕事のノルマを達成できず、心の支えだった“秘密基地”の古本屋「デラシネ」までが閉店。不穏な空気が漂っている。

青春の終わりと共に、色濃く見えてきた「現実・生活・お金」の問題。次週はさらに不穏なことが起こりそうな気配だ。

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