60歳一級建築士・田中ナオミさん「仕事一筋だったけど、体を壊して気づいた”いちばん大切なもの”」
日々を明るく照らしてくれる小さな楽しみや、心を潤すための暮らしの工夫は、幸せを感じさせてくれます。そんな暮らしを営み、わたしらしく、今を生きる女性を紹介する『60代からの小さくて明るい暮らし』(主婦の友社)から、一級建築士の田中ナオミさんの後編をお届けします。
▼前編もどうぞ▼
60歳 一級建築士・田中ナオミさん「悩みごとが消える家づくり」とは?
PROFILE
一級建築士
田中ナオミさん(60歳)
東京都在住
夫婦ふたり暮らし(ご両親との二世帯住宅)
大阪府生まれ、徳島県育ち。1999年、東京都八王子市に「田中ナオミアトリエ一級建築士事務所」を設立。生活者目線に立った住宅設計が専門。近著は『がんばりすぎない家事の時短図鑑』(エクスナレッジ)。
一番の楽しみをあきらめない。そのための努力はいとわずに
自分の事務所を構えてしばらくは、すべての依頼にがむしゃらに取り組んでいた田中さん。
「プロたるもの、来た仕事は全部やらねば!と。でも40代前半の頃に価値観の異なるお客さんを担当し、自分の力を発揮できず、相手にも喜んでいただけず、互いに不幸な形に終わってしまったんです。この一件が身にしみて、なんでもかんでも引き受けるのは卒業しました。双方が幸せになれるのが一番ですから」
また当時は仕事に打ち込むあまり、休みなく働き続けていました。そのせいもあって体を壊し、1週間入院する羽目に。
「夢中になっていた仕事から強制的に引き剥がされ、状況を客観視できました。“なぁんだ、わたしがいなくても代わりはいるんだ”って。じゃあわたしにとって一番大切なものってなんだろう。そう考えて気づいたんです。“愛じゃん!”って」
それ以来、田中さんは家族第一。毎日の楽しみは、仕事を終えて夫と晩酌するひとときです。
「まるで親友と飲んでいるみたいに盛り上がります。それは夫婦の情報源が異なるから。別の仕事や交友関係があり、違うものを見ているからこそ話題が尽きないし、発見も多いんです」
食べて飲んで、話すことが大好き。クライアントと友好を深めるのにも飲み会は不可欠です。
「飲み食いを制限するなんて、わたしには絶対考えられない。ならば体を整える努力をしないと」
そのため毎朝のスポーツクラブ通いを日課に。起床はまだ夜も明けぬ朝4時台!
「夫の通勤に合わせて始めた早起きですが、この朝時間で自分を整えています。毎朝、自転車でスポーツクラブへ。午前5時過ぎから運動し、帰宅後、朝食や家事をすませて、午前9時には仕事を始めます。自分が資本だから健康は大前提。元気じゃないと楽しい住宅もつくれません」
価値観の合う人とだけつき合う。お酒を飲みたいから運動する。そんな“対処に動く”姿勢こそが、田中さんの生活を楽しむコツのようです。
「今年60歳になりました。劇的な変化はないけれど、徐々には変わっていくだろうから、今後はガツガツ仕事をせず、次のステージを考えたいな」
実は最近、徳島市に土地を購入したのだそう。
「幼少期を過ごした徳島市はわたしのソウルタウン。海も山も川もぴかぴかで、友人もたくさん。年2回は夫と帰っていますが、実家の隣が空き家になったのでどうにかしようと。現時点では東京の生活があるから何も動いていないけれど、いずれ移住や二拠点生活をするかも。今はまだ妄想を巡らせているところです」