朝ドラ【あんぱん】二人の距離がどう変化していくのか、中園ミホ脚本の魅力が発揮されそうだ
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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ある意味「見やすい」朝ドラらしい展開だった
『アンパンマン』原作者やなせたかしの妻・小松暢をヒロインとして描くNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第14週「幸福よ、どこにいる」が放送された。
戦後の高知でヒロインののぶ(今田美桜)は初の女性記者2人のうちの1人として高知新報で働き始めた。東海林(津田健次郎)に同行し進駐軍に話を聞いたり、闇市では戦災孤児に話を聞いたりしながら感じたことを文章にしたためるが、最初は「話にならん」と東海林にバッサリ切り捨てられる。孤児は日本中にあふれかえっている。そこでどのようにして読者の興味をひくのかという話だ。記事を書く身として、姿勢を思わずただしたくなる一言だ。
女性が社会に出て、さまざまな経験と奮闘努力を重ねて成長していく。これは朝ドラのひとつの黄金パターンである。取材に奔走し、周りの人との関係性を構築し、何度も書き直して世に送り出すための記事をつくりあげていく。前週描かれた「逆転する正義」の本質をえぐるようなハードな内容から一転、焼け野原、闇市、戦災孤児、職業婦人……今週描かれた内容は比較的オーソドックスな展開ともいえ、ある意味「見やすい」朝ドラらしい展開だっただろう。
女性記者として同時に採用された琴子(鳴海唯)は、お茶汲みを率先して行っているなど、「はちきん」ののぶと対をなすようなこまやかで気がきく女性記者のように描かれていたが、仕事終わりに琴子に誘われ飲みにいくと、それまでの雰囲気から一転、コップ酒(戦後出回ったカストリ酒)を一気に飲み干すと、
「猫かぶっちゅうと疲れるわぁ」
と笑顔をあふれさせる。
「こっちが本当の私やき!」
実はさばさばした素顔をみせた。これは戦後まもなくまだまだ働く女性にとって適切な環境も全く整っていない社会での琴子なりの処世術としての猫かぶりだったのだろう(女性が真の意味で快適に働ける環境が整うのは実はそれから何十年も先のことなのかもしれないが)。琴子は結婚相手にふさわしいと思える男性がいなかったことから新聞社に入ったのが間違いだったという。
「もう、ボタン付けるがも、白湯配るがも、資料整理もあほらしゅうて」
のぶの前では猫をかぶらずぶっちゃけることで、戦前、戦時中の学校教育の世界で大きな壁にぶつかったままののぶにとって、影響を与えてくれそうなキャラクターで、この先どのような活躍をみせてくれるか楽しみな存在だ。