阿川佐和子さんが語る【ワクワクを見つけるヒント】とは?「嫌なことも人に話せば笑い話になる!」
小説家、エッセイスト、インタビュアー、女優など、さまざまな顔をもち、その言動にいつもワクワクさせられる阿川佐和子さん。仕事でも日々の暮らしでも「何でも面白がる癖がある」と話す阿川さんに、今はどんなことにワクワクしているか伺いました。
女優に、個人プレーの仕事にはない面白さを発見
エッセイや小説の執筆の他、インタビュアーや司会者としても活躍。近年は女優としても活躍している阿川佐和子さん。2017年のドラマ「陸王」では老舗足袋会社の元気なおばちゃんを演じ、その自然体の演技が話題となった。
「原作者は『半沢直樹』で人気が爆発した池井戸潤さん。池井戸さんも誰がキャスティングされるのか気にしていらっしゃったようです。ゴルフでご一緒したとき、『今までたくさんドラマのキャスティングの報告を聞いたけれども、一番驚いたのが阿川さんの起用でした』と言われました(笑)」
40代の頃から演じる仕事をしていたものの「さして評判にもならず」。演じることへの意識が変わったのが、この「陸王」だったという。
「インタビューや原稿書きの仕事では、担当者が見守ってくれたり導いてくれたりするけれど、とりあえず現場では自分ひとりで戦わなきゃいけない。個人プレーの仕事が多いところで生きている人間でした。でも、ドラマの撮影現場では、演者だけでなく照明さんや小道具さんなど関わる人すべてが『いいものをつくろう』という同じベクトルで、それぞれの持ち分を同時に発揮して頑張る。私もひとつの歯車として、一緒に戦っているという喜びがありました」
低く渋い声や、 可愛らしい高い声。共演者たちのセリフが楽器の音色のように聞こえて、 「これはオーケストラだな」とワクワクするという。
「『あ、フルート』『ベース』『これはバイオリン』。その音色が重なって素敵な音楽=作品ができるんだというのが『陸王』での経験でした。普段、個人プレーが多いだけに、チームプレーの楽しさみたいなものに味をしめちゃったんですね」
あるとき、阿川さんのもとに一件 のオファーが舞い込む。23年2月公開の映画『エゴイスト』への出演。メガホンを取るのは映画『トイレのピエタ』『ハナレイ・ベイ』などを手がけた松永大司監督だ。
「実は『ハナレイ・ベイ』で主役を務めた吉田羊さんと『週刊文春』で対談をしたことがあって、 彼女が『今回の映画は本当にタフでした』とおっしゃっていたんです。『監督の望んでいるところが突拍子もない。どうすればいいか自分との戦いで、本当に大変だった』と。 『そんなに厳しい監督がいるんだ~』なんて思っていたら、ハッと気がついた。『「エゴイスト」の監督、この人だ!』って(笑)。これはマズい。引き受けたことを深く後悔しました」
迎えた衣装合わせの日。ドキドキしながら足を運ぶと……。
「衣装合わせの後に『エチュードをやります』と言われました。『エチュードって何ですか?』 と聞いたら、ちょっと小さい芝居をやるのだと。台本に書いてあるシーンではなく、息子役の宮沢氷魚くんと親子の日常にある会話を勝手にやってくれ、と。相手に何を言われるかわからないし、私も自分でセリフを決めなきゃいけない。『友達できた?』『部活どうしたの?』なんて、おままごとのような母親の問いかけに、氷魚くんがさりげなく合わせてくれました。
それって、ものすごく高度なこと。でもそれが面白かったんですよ。こんなつくり方があるのか』って」
阿川さんが演じるのは、貧しく病を抱えながらも明るく生きる母親。
「テレビや雑誌の撮影では、“ちょっときれいに映らなきゃいけない問題”があります(笑)。でも今回は、すっぴんで、本当の自分の台所にカメラが来ただけ、みたいな感じでした。
『きれいに映らなきゃ』なんて一切考えなくていいし、装わなくていい。撮影後にモニターで見てみると、世にも美しい鈴木亮平くんと氷魚くんの間に突然、ババア子亀みたいな私が横断するのよ(笑)。ちょっと情けなくはあるけれど、そういう役どころなんだからと、開き直ってやりました」
映画『エゴイスト』
14歳で母を失い、ゲイである自分を押し殺しながら思春期を過ごした浩輔(鈴木亮平)。ファッション誌の編集者となった浩輔は、シングルマザーの母(阿川佐和子)を支えて暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会い、愛する喜びを知っていくが……。