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内館牧子さんが描く、他人事とは思えない老害ワールドへようこそ! 高齢者小説第4弾『老害の人』。

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ゆうゆう編集部

わがもの顔で老害をまき散らす父に、ついに娘がぶち切れる。反省する素振りの父、実はその裏で逆襲を計画⁉︎ リアルな「老害あるある」に、ふき出したり、身につまされたり。内館牧子さんが手掛ける高齢者小説第4弾『老害の人』を紹介します。

『老害の人』
内館牧子著

昔話に説教、趣味の講釈、病気自慢に孫自慢。リアルで痛快、そして他人事とは思えない老害ワールドへようこそ。内館さんも「大好き」という斬新な装丁にも注目。1760円/講談社

老人と若い世代の本音対決が書きたくて

ここ数年、小説家としての活躍が際立つ内館牧子さん。2015年以降に手がけた3作品は、「高齢者小説3部作」と呼ばれ、いずれも大ヒット。映像化もされている。

本書は、その第4弾となる最新作。発売当初から大きな話題となった、ファン待望の一冊だ。

「続けて4作も書くなんて、初めはまったく思っていませんでした。ただ、私自身が年齢を重ねる中で、『老害』という言葉は、ずっと気になっていて……。老人って居場所がないでしょう、家庭にも社会にも。頭数に入れてもらえなくて、『いない』ことにされるんですよ。でも、体が元気であればあるほど、自分の存在を誇示したい。その手段が自慢話だったり昔話だったり、忘れっぽいから同じ話を何度も繰り返したりね(笑)。つまり、本人にとっては生きている証しのアピールなのに、老害と言われてしまう。聞かされる若い人たちからすれば、このうえない迷惑ですから」

とはいえ、標的となる現役世代は「聞きたくないからやめて」なんて、老人いじめのようでとても言えない。

「確かにそう。言ったあとで落ち込みますよね。でも、現実社会では難しくても、小説の中であれば、老人と若い人たちが、お互いの言い分をぶちまけ合うこともできると思って。老害を題材に、そんな『活劇』を書きたいと思うようになったんです」

情景が目に浮かぶリアルな「老害あるある」

物語は、冒頭から「内館ワールド」が炸裂。読み始めたら、最後まで止まらない。「面白くて一気に読みました」というファンレターも届くそうだ。「エンターテインメントを生業(なりわい)としている身としては、そういう感想は何より嬉しいですね」

中身を少しご紹介すると─。主人公は、中小企業の元・敏腕経営者の福太郎さん、御年85歳。とっくに引退したのに、出勤しては社員をつかまえて、昔の手柄話や武勇伝を延々と語るのが日課だ。家族はひとり娘の明代と、社長職を継いだ娘婿の純市、孫の俊。当然、日々被害に遭っている。

さらに福太郎のお仲間たちもまた、クセの強い御仁ばかり。死ぬ死ぬ詐欺の春子さん、病気自慢の竹下さん、高齢バカップルの吉田夫妻、誇り高きクレーマーのサキさん。名づけて「老害クインテット」の面々がまき散らす、あるある感満載のリアルな老害っぷりは圧巻だ。思わずふき出したり、イラッとしたり、老親と重ねて何だか身につまされたり。読み手の感情も忙しくなる。

そんな個性豊かなキャラクター設定も、臨場感あふれるエピソードも、きっと実在の人物や実際の出来事から着想を得たのだろうと思いきや、「よくそう言われるんですが、モデルはいません」とのこと。「しいて言えば、病気自慢の竹下さんかな。会社員時代に、手術で取り出した胆石を持ち歩いていて、皆に見せびらかす上司がいたんです(笑)。竹下のシーンを書きながら、彼のことをちょっと思い出しましたね」

さて福太郎、ある日、おだてられて老害がヒートアップ。あげくとんでもないことをやらかしてしまう。これには、大抵のことは大目に見てきた娘の明代もさすがに激怒。「迷惑なの。もう邪魔しないでッ」と日頃のうっぷんを晴らす勢いでぶちまける。

そして物語は、大きく動きだす。反省して殊勝な態度を見せる福太郎はその裏で、仲間とともに壮大な(?)逆襲計画を企むのだ。ここからの展開は痛快かつスリリングで、まさに活劇の様相。その顚末は?

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