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現役書店員で、23年芥川賞受賞。佐藤厚志さんが『荒地の家族』で描く、被災地に暮らす植木職人の心の風景

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ゆうゆう編集部

第168回芥川賞を受賞した佐藤厚志さん。仙台駅前にある丸善の現役書店員であることも話題になりました。受賞作『荒地の家族』では、東日本大震災から十余年、被災地で植木屋を営む主人公の心の風景が、丁寧に淡々とつづられます。「亡くなった人を、思い出すのはつらいが、繰り返し思い出すことで苦痛は癒やしになっていく」……荒地に光射すような物語の最後はぜひ本書で

『荒地の家族』
佐藤厚志著

津波で仕事道具のすべてを失い、震災2年後には妻を病気で亡くし、喪失感を抱えながら家族のために働く祐治。心穏やかな日は訪れるのか。
1870円/新潮社

一生活者、一職人として地道に生きる人を書きたかった

本作で芥川賞を受賞した佐藤厚志さん。受賞のニュースでは、仙台駅前にある書店の、現役書店員であることも話題になった。受賞直後にはこんなエピソードも。東京で賞の発表を受け、受賞記者会見を行った翌日、版元の出版社にあった『荒地の家族』の在庫35冊を抱えて、新幹線で仙台に帰ったというのだ。

「勤務する書店の在庫が完売してしまったので、予約してくださった方の手に一冊でも早くお届けしたいと思って。運送会社に頼むと2~3日かかってしまいますから」

芥川賞作家が、自ら書いた小説を自ら仕入れ、書店に納品し販売する、というのは、まさに前代未聞! 佐藤さんならではのエピソードだ。 

受賞作は宮城県の南部、太平洋沿岸にある亘理町を舞台に、東日本大震災の10年余り後を描いている。造園業(植木屋)を営む主人公の坂井祐治は40歳。独立直後、津波によって商売道具のすべてを失い、妻を大震災後に病気で亡くす。その後再婚した妻は流産を機に去り、今は母親と小学生の息子とで暮らしている。

主人公の職業に植木屋を選んだ理由を、こう語る。
「震災を描くことより先に、一生活者として、職人として地道に生きる人を描きたかったというのがあります。中学の同級生に植木職人がいるんですが、職人としての技術をもち『ひとり親方』として仕事をしていく彼を見て、いつか物語を書こうと。それと、亘理の農家の庭や海岸に松がポツポツと残っている風景に、植木職人の設定がピタッときたんです」

舞台に亘理町を選んだのにも、理由がある。
「被災地といっても広く、誰にも気にとめられない場所があります。ですがどんなところにも震災後の10年を暮らしてきた人がいます。ドキュメントでもノンフィクションでも拾われない、そういう土地と人々の変化を地元目線で書きたかった。すべての人の思いをすくうことはできないけれど、細かく個人を描く書き方で読者にリアルに伝わればと」

丁寧にそして淡々とつづられた文章。時がたち、土地が整備されても被災地の人の暮らしは決して元には戻らず、深い悲しみや喪失感を抱えたまま生きる現実が伝わり、胸が痛む。日々の仕事をこなしつつも、被災前後や亡くなった妻を繰り返し思い出しては苦しみもがく祐治。その荒涼とした心の風景に触れ、どうか安らぎの日々が訪れてほしいと願いながら読み進む……。

「全体の構成を決めずに書き始めたので、僕自身も書きながら、この先どうなっていくのか堂々巡りが続きました。救いのない終わり方にはしたくなかったので、再生まではいかなくても、またいいときがくるんじゃないか、というところに、何とかもっていけてよかったと思います」

荒地に光射すような物語の最後は、ぜひ本書で確かめていただきたい。

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