現役書店員で、23年芥川賞受賞。佐藤厚志さんが『荒地の家族』で描く、被災地に暮らす植木職人の心の風景
「災厄」という言葉には病気や別の災害も含まれる
ところで、本書では「地震」「津波」という言葉が使われていない。佐藤さんは大地震を「災厄」という言葉に、津波を「海が膨張する」という言葉に置き換えた。
「地震や津波という言葉を不快に思う方がいるかもしれない、というのもありましたが、文学的な言葉で表現しなければと。読みながら違和感をもってもらえる言葉、読んだ人の意識に残るような言葉を選びました。災厄という言葉には震災だけでなく、病気や別の災害なども含まれています。誰しも近しい人の死を経験し、その悲しみやつらさを背負って生きているのが現実ですから」
芥川賞の「受賞のことば」では、「病気で亡くなった親友の人生を全力で肯定するつもりで『荒地の家族』を書いた」と述べている。
「亡くなった人を思い出すのはつらいことです。でも、何回も繰り返し思い出していると、だんだんいいときの思い出とか楽しかった記憶にすり替わってきます。苦痛ではなく、癒やしになっていくと思うのです」
苦痛が癒やしに変わるまで、どのくらいかかるかはわからない。でも繰り返し思い出すことで、死を受け入れられるようになる。「そうやって時間がたつということは、いいことなんだなと思います」
子どもの頃から本が大好きで小説家に憧れがあったという。
「映画もアニメも好きですが、小説は自分が物語に参加でき、受け手一人ひとりが自分の経験やイメージで自由に楽しめる。登場人物の顔も読んだ人それぞれが自分なりにイメージしますよね。どう読まれるかも面白いし、小説家はやりがいがある、と思っていました」
プロフィール
佐藤厚志
さとう・あつし●1982年、宮城県仙台市生まれ。東北学院大学文学部英文学科卒業。丸善 仙台アエル店勤務。2017年『蛇沼』で第49回新潮新人賞受賞。20年『境界の円居』で第3回仙台短編文学賞大賞受賞、21年『象の皮膚』が第34回三島由紀夫賞候補に。23年『荒地の家族』で第168回芥川賞受賞。
写真提供/新潮社
※この記事は「ゆうゆう」2023年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。
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