親の認知症初期での「財布がなくなった」。対応方法とアドバイス
「財布がなくなった」「通帳を盗られた」と大騒ぎして、犯人にされてしまうことがあります。もの盗られ妄想は、認知症の初期からよくみられます。家族はやりきれない思いになりますが、症状のひとつと思って割り切りましょう。ほかにも、同じ品物を買い込む、車の運転をやめてくれないといった困りごとへの対策を、川崎幸クリニック院長の杉山孝博さんに教えていただきます。
財布を盗られた、通帳がなくなった
「財布を盗られた」「大事な通帳がなくなった、ここに入れていたはずなのに」
これは、認知症の初期からあらわれる症状です。
身近な人が、ものを盗った犯人にされてしまうことが多いため、家族は情けない思いをすることも多いでしょう。いちばん世話をしている私がどうして疑われるの!と、つい頭にきてしまう人も。
そして、なくなったものが見つかったとしても、本人は自分が忘れていたとは認めません。だれかがその場所に移した、隠した、と言い張り、自分がしまい忘れたりしたことを認めないケースが多いようです。
認知症の人には、自分の失敗を認めない人がたくさんいます。自分にとって不利なことは認めたがりません。
ただ、こう考えてはどうでしょう。認知症の人でなくても、自分に不利なことは認めたがらない人がいますよね。自分に不利なことは認めたくないという気持ちは普通に働きます。これは自己保存の本能です。それでも、うそを言ったり、ごまかしたりしないのは、理性や判断力があるからでしょう。
認知症の人は、こうした理性や判断力が衰えるため、不利なことは認めたくないといった本能的な言動があらわれてしまうのです。
ですから、もの盗られ発言があって、犯人にされたとしても、怒り心頭にならない。いちいち目くじらを立てず、思い切って割り切ってしまいましょう。
もの盗られ発言は、かつて物がなくて 経済的に苦労してきた人に多くみられるということを言う人もいます。親が歩いてきた道を理解して、心情を受け止めることも、認知症の人とうまくつきあっていくポイントではないでしょうか。
もの盗られ妄想への対処法
盗られた、なくなった、とあわてている親への対処法は以下のとおりです。
・いっしょに探す。本人が探し出せるように誘導する
(もし他人が見つけて渡すと、その人が盗ったと思われてしまうことがあるため)
・本人の訴えに耳を傾け、本人が発した言葉をそのまま返す
「財布がなくなった、困ったわ」→「財布がなくなったの、困ったわね」
・見つからないときは、話題をかえる
「ちょっと休憩してお茶にしようよ」など。
・見つかった場合は、見つかってよかったねといっしょに喜ぶ
・ふだんから、本人がものをしまう場所をさりげなく確認しておく
・事情を知っている第三者に本人の訴えを聞いてもらう
(ただし第三者は同意してはNG 同意すると、家族が犯人扱いされる場合がある)
同じ品物を何度も買い込むとき
認知症の人は、頭の中に何か気がかりなことがあり、それが「乱買」という行為につながることがあります。
たとえば、物質の乏しかった戦中・戦後に不自由な経験をした人が、いざというときのために大量の米を買い込んでいる例があります。
本人にとっては、安心できる大切な品物であり、周囲の人が注意したり、本人の目の前で処分したりする方法は不適切です。
こうした乱買は、認知症の人に見られる強迫行為(不安感を落ち着かせるための行為)のひとつです。特に問題のないものはそのまま保管し、腐りかけているものや不衛生なものは、本人がいないときに少しずつ処分するようにしましょう。