予算1日1000円で暮らす小笠原洋子さん74歳。ケチケチ生活でも「悠々自適」というその訳は?[前編]
「ケチ上手とは、できるだけ無駄を省いてお金からも物からも自由になり、その代わりに心が豊かになるような工夫を重ねること」と話すのはエッセイストの小笠原洋子さん。ひとり暮らしの年金生活で、小笠原さんはそれを実践しています。毎日の暮らしぶりと、取材当時の住まいの様子を教えていただきました。
お話を伺ったのは
エッセイスト 小笠原洋子さん
おがさわら・ようこ●1949年東京都生まれ。東洋大学卒業。京都の画廊勤務後、東京で美術館の学芸員や大学の非常勤講師を務める。退職後、フリー・キュレーター、美術エッセイストとして活動。著書に『フリードリヒへの旅』(角川学芸出版)、『おひとりさまのケチじょうず』『ケチじょうずは捨てじょうず』(ともにビジネス社)などがある。2月には新刊が発売予定。
自分らしくシンプルに美しく暮らすということ
緑が広がる東京郊外の公団住宅で、ひとり暮らしをしている小笠原洋子さん。都内の実家を処分し3LDKの分譲団地に移ったものの、いろいろあって2015年にここに引っ越してきた。
間取りは3DKで家賃が約5万5000円。何かあったときのための有料の救急ベルつき電話が設置されたシニア向け住宅の一室だ。週に一度は電話で安否確認もしてくれる無料サービスがついている。
「私は独り身ですが、ひとりは苦になりません。むしろ誰にも気兼ねのいらない時間が好き。ここに越してきて、孤独死して発見が遅れたら周囲に迷惑がかかる、というひとり暮らしの不安も減りました」
部屋はすっきり片づき、清潔で、そこここに住む人の美的センスが感じられる。
団地サイズの小さな玄関を上がると短い廊下があり、その突き当たりはちょっとしたギャラリー風コーナーになっている。植木鉢をのせる花台をふたつ並べ、黒い板を渡して棚にし、「ややお金持ちだった30歳の頃」手に入れたという柳原睦夫作の陶芸品が飾られ、壁には「蹲る」という備前焼の花挿しが吊り下げられている。
このいかにも和風な花挿しに何かを生けて、現代アートにしてみたいと思いついた小笠原さん、大工道具箱に眠っていた、らせん状に巻いてあった太めの針金を、そのまま花挿しから垂らしてみたという。それが下の写真だ。
カーテンのボリューム感が好きではないので窓にカーテンはなし。代わりに和紙風のブラインドが取りつけてある。布より掃除しやすく、巻き上げれば開放的な気分になれるという。また、レースカーテンの代わりにはメモ用紙を切った手作りのモビールを吊り下げている。
「窓の向こうの雑木林を暮らしの借景にしたい。でも外からの視線は遮りたい。そこでブラインドとモビールを考えました」
また、あまり使わない北向きの洋間は趣味の部屋に。会津塗色粉蒔絵の小たんす、中近東の真鍮の水差し、横尾忠則の版画……。いただきものや若かりし頃に購入したものの中からお気に入りだけを並べた、その名も「ワタシ・ギャラリー」だ。