【虎に翼】航一(岡田将生)の「ごめんなさい」に秘められた思い。個人で背負う戦争責任の重さとは
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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【虎に翼】玉(羽瀬川なぎ)のデリケートな思いをあっさり知らせてしまう相変わらずの寅子(伊藤沙莉)だが、結果オーライだ
伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第18週「七人の子は生すとも女に心許すな?」が放送された。
涼子(桜井ユキ)と玉(羽瀬川なぎ)の、立場を超えた友情という、どこか爽やかな印象を残した前週から一転、今週描かれたのは、国籍による「差別」というハードなテーマだった。
航一(岡田将生)と入倉(岡部ひろき)とともに寅子が担当したのは、スマートボール場での放火事件。経営者の金顕洙(許秀哲)による保険金目当ての犯行とされ逮捕された裁判がスタート、杉田太郎(高橋克実)・次郎(田口浩正)兄弟が弁護を担当することとなった。
傍聴席で兄の無実を訴え激昂する弟の広洙(成田瑛基)、そしてそれを朝鮮語で制止する小野(堺小春)。小野が朝鮮語が話せるのは、過去に朝鮮人の恋人がいたからだが、親の猛反対で別れさせられた過去があった。
かつての香淑(ハ・ヨンス)きょうだいのエピソードもそうだったが、日本国内での朝鮮人・韓国人への差別意識は戦後もずっと存在し続けた。入倉も公平であらねばならぬ立場であるものの、「また朝鮮人か。事件ばかり起こして困ったやつらですよ」さらには「火のないところに煙は立たず」と口にしてしまうような感覚だ。しかもそれは悪意ではなく、無意識の差別であるところがリアルに見え、脚本にストレートに盛り込む力量にも息を呑むような感覚があった。
それゆえに、入倉の「また朝鮮人か」という発言には「はて? 生まれた国は関係ないのでは?」と撤回させようとしたり、「これらすけ、朝鮮の連中は」という警官にも「差別的発言は見逃せません」とたしなめたりする寅子の姿でアップデートされた現代の視点を入れ、バランスを保っている感がある。
航一は、そんな入倉に「入倉君は昭和生まれですからね」、寅子にも関東大震災の記憶があまりないだろうからという前置きでおだやかに語りかける。
「あのとき『朝鮮人が暴動を起こした』という流言が飛び交って、大勢の罪のない朝鮮人が殺されたことは? 差別が生まれる理由は様々です。『火のないところに煙は立たぬ』で終わらせるのか、それともその煙をあげたのは誰なのかを見極めるのか」
おだやかな口調ながら、負の歴史が我々視聴者にあらためて正面から突きつけられてきた。いっぽう、涼子の経営する「喫茶ライトハウス」も、開店にあたり、「贔屓されている」という噂から嫌がらせを受けていた。ここには玉の、しょうがい者差別が根底にある。さまざまなエピソードから同じテーマを角度を変えて描き考えさせてくれることの多いドラマだが、マイノリティに対する「噂話」が歪みや衝突、やっかみを生み出してしまうことを、今週もそれぞれの登場人物が向き合う出来事によって、今なおさまざまな場面で残っている問題であることを実感させられる。