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【虎に翼】航一(岡田将生)の「ごめんなさい」に秘められた思い。個人で背負う戦争責任の重さとは

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田幸和歌子

また、差別の問題と並行して我々に突きつけられたのが、「戦争」という問題だ。太郎の娘と孫を長岡空襲で失っていたことを知った航一は、「ごめんなさい」と涙ながらに頭を下げた。寅子が何かあったのか聞いても、「秘密です」と答えていたが、航一はかつて「総力戦研究所」に所属し、戦争による日本の敗北は逃れられないという分析結果を報告するものの、上層部に取り合ってもらえず開戦を招いてしまったことを、ずっと後悔し続けていたのである。個人で背負う戦争責任の重さ。

「どうあがいたって、戦争を止めらったわけじゃねんだっけ」
と杉田兄弟も慰めるが、一市民ではどうにもならないことは確かである。しかし、「そういうものだから」という自らの責任がない感覚は、先にあげた差別にもつながることを、ドラマを見ながら気付かされる。

放火事件については、顕洙が弟にあてた手紙にある「私が中を完全に燃やしてしまったせいで心配をかけただろう」という訳文に寅子は引っかかった。無意識の偏見を持つ入倉は、なんの疑いもなく「朝鮮語だからバレないと思ったんですよ」と言ってしまう。引っかかる寅子もまた、「どうしても被告人側、差別を受けている側に気持ちが寄ってしまいます」と、人間の感情の難しさを自覚して事件の解明にのぞむ。それが司法の難しさでもあるだろう。

悩む寅子は、香淑に助けを求める。すると、「中を燃やす」と訳された一文は、「気を揉ませる」という意味の慣用句で、検察の誤訳ではないかと香淑が指摘する。これによって、杉田兄弟ともあらためてその翻訳の正当性について検討され、顕洙の無罪が確定した。うれしい結果かもしれないが、この誤訳を顕洙兄弟が指摘しなかったことに対する香淑の言葉、「あきらめちゃったんじゃないでしょうか」には、「差別」という感覚が持つ難しさを痛感させられた。

「虎に翼」第89回より(C)NHK

「虎に翼」第89回より(C)NHK

普通であるとは、平等であるとは何なのだろうか。簡単に解決しない問題であり、今もなお続く、なんならバックラッシュが起こっている様々な差別について、あらためて考えるべきことを突きつけられている気がする。

「入倉さんは踏みとどまれてるじゃない」
そう寅子は言った。入倉が心の底から理解したとは言えないかもしれないが、そこに「差別」という感覚があるという気づきはあった。それはたぶん大事な一歩、そう示されたような気がした。

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