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【虎に翼】最高裁の大舞台で、よね(土居志央梨)に寅子の口癖「はて?」をシンクロさせた、最終週の演出がいい

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田幸和歌子

【虎に翼】最高裁の大舞台で、よね(土居志央梨)に寅子の口癖「はて?」をシンクロさせた、最終週の演出がいい

「虎に翼」第126回より(C)NHK

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1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ! ついに最終回です。
※ネタバレにご注意ください

▼前回はこちら▼【虎に翼】桂場(松山ケンイチ)が目指すものとは?大河「平清盛」での孤独な姿が重なって見えてきた

「虎に翼」——中国の法家、韓非子の言葉に由来する、強い力を持つ者にさらに強い力が加わることをたとえたことわざである。NHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の最終週は、その作品タイトルがサブタイトルに冠された。

タイトルに象徴されるように、さまざまな立場や環境で、さまざまな人たちそれぞれの戦い、力といったものが描かれ続けたドラマだったような気がする。

前半の大きなテーマは、女性が社会に進出していく困難さを切り開いていく戦いが軸となっていたことはいまさら説明するまでもない。結婚という「制度」すら社会的地位のためという捉え方があったり、結婚による改姓という現代まで議論が続く要素が盛り込まれたりもした。ヒロインの寅子(伊藤沙莉)の「月のもの」が非常に重いという設定から、生き物としての女性が生きる困難さ、そして戦いをフィジカル面からも提示してくれた。

寅子たち登場人物の「戦い」は、最終週も続いた。後半数週にわたり、大きなテーマとして描かれ続けてきた「尊属殺」と「少年法」をめぐる問題である。

両親と同等以上の親族を殺害する「尊属殺」に対する非常に重い罪は、果たして憲法の内容に沿うものなのか。これは、志なかばでこの世を去った寅子たちの師・穂高(小林薫)が唱えてきた問題である。父親からのあまりにもひどい虐待と性暴力の末にその父を殺した美位子(石橋菜津美)の弁護を担当した、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)は、いよいよ最高裁に立つ。

尊属殺が憲法第十四条に違反しないというのであれば、司法や社会はなんと無力なことかと訴えるよねが口にした「はて?」。最終週の大舞台にきて、寅子の口癖をシンクロさせてくるという演出には、明律大学女子部時代から、常にぶつかり合い反発しながらも、奥底には同じ思いが流れる二人の関係性が集約された、いい演出だった。

最高裁長官となった桂場(松山ケンイチ)は、原判決破棄すると、判決を言い渡す。これが、長年穂高や寅子らの主張を「時期尚早」と言い続けた桂場が、直後に控えた定年を前に、この決断で「戦い」を終わらせた。

「虎に翼」第127回より(C)NHK

この歴史的判決の翌日には、令和6年の世界でも、人生のほとんどを冤罪によって奪われることとなった「袴田事件」の無罪判決が言い渡され、裁判長が被告とされた袴田巌さんに謝罪するという、日本の司法の大きな転換点と重なり合わさるというのもまた、不思議な運命の巡り合わせを感じずにはいられない。

この尊属殺の問題、寅子たちが学生時代に直面した女性が学ぶこと、社会に出て働くことの困難さをはじめ、同性愛や同性婚、障害者や日本社会の中で生きる外国人にとっての人権など、現代に直結するさまざまなテーマが、高い熱量とともに突きつけられ続けるドラマだった。

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