【伊藤比呂美さん最新作】60代で初めての一人暮らし。 ぽかんと空いた「何か」を埋めてくれた存在とは?『野犬の仔犬チトー』
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ゆうゆう編集部
親と夫を見送り、子どもが巣立ち、60代半ばで初めて一人暮らしを始めた伊藤比呂美さん。最新作『野犬の仔犬チトー』では、伊藤さんのぽかんと空いた「何か」を埋めてくれた犬猫たちとの愛しい日々が綴られています。
『野犬の仔犬チトー』
伊藤比呂美著
犬1匹、猫2匹との暮らしに野犬の仔犬チトーが加わった。ワンオペ、シニア、多頭飼い。苦労も不自由も多いけれど、互いに愛し必要とされる犬猫たちとの3年間の記録。
光文社 1760円
動物愛護センターのホームページに暗い目をした仔犬がいた
キュッと体を丸めてうずくまり、不信感に満ちた暗い目で周囲をにらむ幼い雌の野犬。表紙カバーのイラストは、家にやってきた日のチトーの姿。描いたのは、著者の伊藤比呂美さんだ。
2020年春、伊藤さんはたまたま動物愛護センターのホームページをのぞいていた。仕事につまったとき、手持ち無沙汰のときに見てしまう趣味だという。保護犬猫のページに、仔犬の写真が載っていた。「珍しい」と思った。仔犬はすぐに引き取られるからだ。「人なれしていません」という但し書きがあった。
これも縁だと連絡したところ、捕獲された野犬の仔犬だと知った。このままだと殺処分の可能性がある。
「野犬は、野良犬とは違います。人間に飼われたことがなく、動物の中でだけ生きてきたので、人間になれるのには時間がかかるんです」
伊藤家には雄犬1匹と雄猫2匹がいたが、伊藤さんはその仔犬を引き取りチトーと名づけた。しかし、近づけば逃げ、首輪にリードをつけることもできない。抱き上げると指にかみつき、おしっことうんちをまき散らす。まさに野犬だった。
やがてチトーは伊藤さんのベッドにもぐり込み、背中をなでさせてくれるようになる。少しずつ、ほんの少しずつお互いの距離が縮まっていく。そんなチトーの描写がたまらなく愛おしい。
「といっても、家に来て4年、いまだにリードをつけさせてはくれません。だから散歩は一度もしていません。でも、いいんじゃない? 幸せそうだから。今は野犬というより、ひきこもりの犬って感じですね」