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ドラマ「団地のふたり」が50代に心地良い理由を考えた。私たちの心に沁みた“考える時間”とは?

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田幸和歌子

父が団地の建て替えを進めようとしたのは……

また、一見、羨ましいほどに穏やかで平和な日常が描かれているが、ここに行きついたのは、いろいろ諦めた、手放した結果でもある。

野枝は大学の准教授の一歩手前までいき、教授とのあらぬ噂によって大学を辞め、非常勤講師になった。かつての秀才は、今では「出戻りの居候」だ。一方、奈津子はかつて売れっ子イラストレーターだったが、仕事が減り、父が亡くなり、母が親戚の介護で不在となった団地に住んでいる。呑気で平和に見える日常は、「永遠」ではない。そんな中、老朽化した団地に建て替えの話が持ち上がるが、いずれも親の団地に居候する身であるため、意見する権利もお金もなく、できることと言えば、親の意思を尊重し、手助けすることだけ。

しかも、団地の理事長である野枝の父が建て替えを進めようとしたのは、自分たち親がいなくなった後の野枝の人生を心配してのことだった。なんとも身につまされる話だ。

ところで、かつては、ドラマに出てくる50代女性と言えば「お母さん」、もっと上の世代は「おばあさん」ばかりだった。テレビドラマは楽しいけれど、そうした属性ごとのステレオタイプを描くことで「普通」のイメージを固定し、そこからはみ出す者を息苦しくさせる負の面も持っていた。

しかし、本作では高齢ながらに恋人を追いかけて海外まで行ってしまう人をはじめ、いろんな先達がいて、いろんな価値観・生き方があることを示してくれる。

実際、現在51歳の自分の周りを見回しても、子育て真っただ中の人もいれば、子育てが一段落した人も、子なし夫婦も、おばあちゃんになった人も、バリキャリ独身も、転職を繰り返してきた独身も、親の介護で二拠点生活をする人も、再婚したての新婚もいる。

それぞれに喪失や不安も、希望もあり、まだまだ先を行く先輩方も続々とくる後輩たちもいる50代。年齢や環境などの個人差を含め、縦横無尽に無数に分岐するあらゆる人生やライフステージが交わる場所が50代なんじゃないかという気もする。

これまでを振り返り、この先どこに行こうか……そんなことを考える時間をくれるドラマが『団地のふたり』だった。

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