ドラマ「団地のふたり」が50代に心地良い理由を考えた。私たちの心に沁みた“考える時間”とは?
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田幸和歌子
50代、独身、幼ななじみのふたりが、実家の団地に戻って暮らしていく日常が描かれる物語。小泉今日子×小林聡美が織りなす絶妙な空気感のドラマがいま話題です。NHK BSプレミアム 4K/NHK BSで放送、U-NEXTでも配信中。大事件ではないけれど、小さい事件が次々に起こって……。エンタメライター田幸和歌子さんに「団地のふたり」を語っていただきました。
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ふたりが「よくできた人」というわけじゃない
長い長いバカンスか、はたまた紆余曲折の末にたどり着いた桃源郷か。藤野千夜の同名小説を原作に据えた小泉今日子×小林聡美のドラマ『団地のふたり』(NHK BS)の心地良さの理由をいろいろ考えていた。
大学非常勤講師の野枝(ノエチ/小泉今日子)とイラストレーターの奈津子(なっちゃん/小林聡美)は、50代・独身・実家暮らし、同じ団地で生まれ育った保育園からの幼なじみ。高校・大学は別々で、それぞれ事実婚や結婚・離婚を経て、再び団地の実家暮らしに戻っている。
夕飯をほぼ毎日一緒に食べ、その日起こったことをとりとめなくしゃべったり、団地住民たちと太極拳をやったり、断捨離で不用品をフリマアプリで売ったり、売れたお金でちょっと贅沢な美味しいモノをお取り寄せしたり。50代ながら、高齢者の多い団地では「若手」として網戸の張替えを頼まれ、そのお礼としてピザの出前+1000円入りポチ袋をもらったり、その噂が広がり、「業者」状態になってしまったり。
引っ越してきた小学生の困り事から野良猫騒動に巻き込まれたり、初恋の人が認知症の母親と戻ってきたり、同性愛の男性の失恋相談を受けたり、元ヤン夫妻の相談相手になったり。
かと言って、ふたりが「よくできた人」というわけじゃない。第7話でふたりはケンカをする。
きっかけは、一緒に出掛けようとした際、一度は奈津子の遅刻で延期、リベンジするも、マイペースな奈津子に野枝が振り回されて苛立ったこと。恥ずかしながら、このエピソードにはハッとさせられた。
この出来事のみを切り取ると、「ルーズな奈津子VSしっかり者できっちりした野枝」の構図に見える。この出来事に限らず、おそらくふたりはこんな感じのやり取りをずっと繰り返してきたのだろう。いつもきっちりした人間のほうが、マイペースな相手に合わせ、我慢し、振り回される損な役回りに見える。極端に言えば「ルーズな加害者と、振り回される被害者」のようでもある。しかし、人間関係ってそんなに単純なものじゃないとも気付かされる。
努力家でしっかり者の野枝は、人気イラストレーターになった昔の知人について、奈津子が羨ましいと思わないのかと考えたり、「絵本を描いたら?」と言ったり、ガンバレと言ったりする。自分がきっちりしている野枝は、いろいろユルイ面がある奈津子を励ますつもりで、良かれと思って、おそらく無意識に傷つけていることもあるだろう。
また、奈津子は野枝に何かあったことにすぐに気付くが、野枝が自分から話すまで待っていてくれる。この「待ち」のゆったりペースこそが、野枝にとっての心地良さでもあるだろう。自分などもマイペースな夫にしばしば苛立つが、きっと支えられていることもいろいろあって、それが日常になると、つい忘れがちだ。こうした凸と凹で成立する関係性は、古くからの友人同士や夫婦、仕事関係においてもよくあることで、そこに正解はないことを本作は思い出させてくれる。