ある意味リアルな描写なのか!?【おむすび】もっと知りたかったのは描かれない苦労や努力だ
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。平成青春グラフィティ「おむすび」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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「さすが」「すごい」を口にしたら電流が流れるぐらいにしてほしい気もする【おむすび】登場回数はいったい!?コロナ禍でヒロインたちはどう向き合っていくのか
橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説『おむすび』第23週「離れとってもつながっとうけん」が放送された。
サブタイトルが示すのは言うまでもない、新型コロナウイルスの発生にともなう人と人との〝距離〟についてである。
「ソーシャルディスタンス」「リモート」「密」「アクリル板」「新しい生活様式」……コロナ禍を経て我々の現在の生活は大きく一変した。特にコロナ禍初期、最初の緊急事態宣言発令時あたりの、実家への帰省や県またぎもままならず、入院した家族への面会も許可されないことなど、誰もが経験したことのない事態だったからこそ意識した〝距離〟、そして人と人とのつながりを強く思う事態を全世界が共有した。
2025年は戦後80年という大きな節目となる年である。これまでたくさんの作品で描かれ名作も生み出されてきた太平洋戦争からそれだけの時間が流れ、当時の経験を持つ世代は出演側にも製作側にも次第にいなくなり、記録や証言から作られていくモチーフとなり、関ヶ原の戦いや日露戦争などのような、ある意味での「歴史物」となっていくのだろう。
ドラマや映画、あるいはドキュメンタリーの世界において、製作側と視聴者側の共通体験を持つ忘れてはならない大きな出来事として、阪神・淡路大震災と東日本大震災、そしてコロナ禍は今後多くの作品で取り上げられるものとなるだろう。平成から令和にかけての日常を描く『おむすび』は、まさにそこに向き合った作品であった。
これらの出来事が節目節目で訪れることで、登場人物たちの内面や環境にも大きな影響を及ぼし、変化や成長にもつながっていった。
さて今週はそのようなわけで、ヒロインの米田結が勤務する大阪新淀川記念病院はコロナ禍と戦う医療従事者たちの姿を中心として描かれた。本作は、登場人物たちが直面する困難や悩みを、「美味しいもん食べたら悲しいことちょっとは忘れられる」という「食」の力、そしてポジティブに生き抜くための「アゲー↑」という「ギャル魂」で乗り越えてきた。それはとても素晴らしい視点である。
しかしだ。あの初期のコロナ禍の先の見えない不安に満ちた日々の記憶を皆さんも思い出してほしい。それこそ美味しいものやギャルパワーではどうにもならない事態だったはずだ。これまでのように「さすが結ちゃん」「結ちゃんのおかげ」というわけにもいかないだろう。そこを、管理栄養士として病院勤務するヒロインたちがどう向き合っていくのか注目していた。
知らなかった苦労や努力にもう少しスポットがあたれば
コロナ禍により、院内はかつてない緊張感に包まれる。医師や看護師たちはそれこそ休む暇もなく、感染拡大予防に神経を尖らせる日々だ。そこに管理栄養士はどのように力を発揮するのか。当時の医療現場に関する報道でほぼ触れられることもなかったであろう管理栄養士たちはそのときどうしていたのか。それだったら興味深い。
しかし、結が提案したのは、食欲不振の患者に「ふりかけをつけてみたいんです」、コロナ感染にともなう喉の痛みで食事をとりにくかったりする患者のために「口当たりのいいアイスクリームなんかもいいですね」他にもゼリーだのプリンだの。描かれたのは、いや、そこじゃない!としか言いようがないやり取りだ。
もちろん実際の医療現場での管理栄養士さんたちがみなこのような日々ではなかったと思うのだが、少なくとも作品内でのこのやり取り、最前線で勤務する医師や看護師が見たら、「栄養士さんたちは気楽ですね」と嫌味のひとつもこぼされそうな描かれ方だ。
それこそ医療崩壊で病床数の問題も深刻となり、口当たりや栄養、色味などのことを考えるような余裕はなかったような気がする(そんな余裕のない環境でも必死で少しでも栄養についての工夫をしていたんですよと、知らなかった苦労や努力にもう少しスポットがあたればよかったのかもしれない)。細かいところで恐縮だが、コロナと食の関係でいえば、味覚障害も大きな問題であったことについては、食で解決どころか触れられもしなかったことも残念なポイントだ。