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「さすが」「すごい」を口にしたら電流が流れるぐらいにしてほしい気もする【おむすび】登場回数はいったい!?

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田幸和歌子

「さすが」「すごい」を口にしたら電流が流れるぐらいにしてほしい気もする【おむすび】登場回数はいったい!?

「おむすび」第107回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。平成青春グラフィティ「おむすび」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

▼前回はこちら▼

永吉(松平健)も『おむすび』ヒロインのような存在だったか!残り1カ月の結(橋本環奈)が羽ばたいていく先は?

「おむすび」のさまざまな矛盾、展開の難しさ

橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説『おむすび』第22週「理想と現実って何なん?」が放送された。

このドラマで序盤から何度も登場し、多くの人々が抱える悩みや頑なな気持ちを解消し続けてきた、「美味しいもん食べたら、悲しいこと忘れられる」というセリフ。ときには涙まじりになりながら、〝食〟の大切さ素晴らしさを視聴者に伝えてくれるセリフだ。

もとはヒロイン結の祖母・佳代(宮崎美子)が結に教えてくれた言葉。最近のエピソードでは管理栄養士としてのあり方に悩む結に「食べり」と、娘の花(宮崎莉里沙)にこのセリフとともにおむすびを差し出され、3代にわたる〝継承〟を感じさせるちょっといい場面だった。

このように美味しいものを美味しく感じながら食べることの嬉しさ、幸せ、そういったことを伝えるというテーマ性は素晴らしいものであると思う。しかしだ。結の職業とは管理栄養士、食事を美味しく楽しむという感覚的なことよりも、優先度でいえば重視されるのは健康のための栄養やカロリーのバランス(色味などの見た目の要素も)のはずである。

『おむすび』というドラマには、軸が「食」ではあるものの、相反する視点がそれぞれメインとなることが立ちはだかってしまい、さまざまな矛盾、展開の難しさが生まれてしまうことになってしまったのではないだろうか。

その難しさが大きく出てしまったのが、結がつとめる大阪新淀川記念病院で、入院患者さんたちにビュッフェ方式で好きな品を持ってこさせて「これはちょっとやめましょう」などと、健康のことを思えば正しいのではあるが目の前で好きなものを取り上げるという見ようによっては残酷なダメ出しをしていくという、その難しさを象徴するエピソードだったと思う。

モリモリが登場する格好のチャンスだったのでは?

22週のストーリーの柱となるのは、結の幼馴染でもありコンビニ会社の商品開発部につとめる菜摘(田畑志真)との高齢者向け弁当の商品開発だ。

コンビニ弁当の新商品開発が、こんな個人レベルの依頼で大丈夫なのかとか細かいことは気にせず、さまざまな試食や試食を重ねながら高齢者の健康を考える弁当づくりに挑むが、その過程で美味しいけれども大量生産し広く流通させるという性質上の手間やコストのことを指摘され、思い悩んでしまう。

規模こそ違えどこれって管理栄養士になる前に勤めていた星河電器の社員食堂時代にいやというほど思い知らされたことではなかっただろうか。病院勤務のうちに忘れてしまったのだろうか。

忘れるといえば、お弁当づくりといえば、それこそ夫婦でお弁当屋を開店したらしいモリモリ(小手伸也)が再登場する格好のチャンスだったのではないだろうか。大量生産品とはまた異なるが、お弁当のプロであるかつてのクラスメートという格好の存在であり、視聴者にとって専門学校時代のこともちょっと懐かしく思い出せそうな気がしたのだが。これもこれで登場人物と同じように忘れられてしまったのだろうか。

例によって、菜摘の奮闘と結のアイデアによって、さまざまな課題をクリア、無事高齢者向けお弁当は無事完成する(健康のための食事として1種類だけでいいのかという細かな疑問もあるが)。この弁当開発にあたり、幼馴染どうし手を組み困難を乗り越えていくというのは熱いエピソードではある。

「おむすび」第107回より(C)NHK

しかし、やはり結は基本的に眉間にしわを寄せ考えたり報告を受けるという立ち位置で、調理面で試作をつくるでもなく(これは病院食の調整の際もそうだが)各方面に直接交渉を担当するでもなく、こういうものをと依頼してできてきたものを「確認する」「報告を受ける」というものだった。

これもまた前半からよく指摘されることではあるが、結は基本的に直接動かず報告を受ける立場であることが多すぎる。それでいて、エピソードごとのクエストがクリアしたときには「さすが結ちゃん!」「結ちゃんのおかげ」で結ばれてしまう。え、実際にがんばったのあなたじゃないの? と感じてしまうのは、本来朝ドラとはそんなものということなのだろうか。

この「さすが」「おかげ」連発は、結が栄養士として活躍し始めてからより加速し、毎回「さすが」「すごい」をどこかに入れなければならない決まりでもあるのだろうかというレベルだ。むしろ、それを口にしたら電流が流れるぐらいにしてほしいという気もするのだが。誰か「さすが」「すごい」の登場回数を数えてみてもらえないだろうか。

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