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【岸本葉子さん】「親に借金があるかないか。これだけは生前に聞いておくべきです」”しなやか”な終活の仕方

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ゆうゆう編集部

いわゆる「終活」すべてを行う必要性は感じていないけれども、気がかりなことについては解消していく。そんな岸本葉子さん流のしなやかな終活のポイントを聞きました。

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PROFILE
岸本葉子さん エッセイスト

きしもと・ようこ●1961年神奈川県生まれ。
東京大学教養学部卒業。生命保険会社勤務後、中国留学を経て文筆活動へ。日々の暮らし方などのエッセイを発表。
『捨てきらなくてもいいじゃない?』『ひとり上手』『60代、軽やかに暮らす』など著書多数。2021年には句集『つちふる』を上梓。

『60代、不安はあるけど、今が好き』 
1760円/中央公論新社

キャッシュレス化にデジタル化。時代は変化しても私は私らしく。60代をいっそう充実させて輝く、岸本さんの日々を綴る最新刊。

終活と一口にいっても準備と心構え両方が必要

30代でマンションを購入し、50代でリフォーム、着実に快適で豊かな暮らしをつくり上げてきた岸本葉子さん。60代に入った最近は、今後の自身の「しまい方」というものにも意識が向くようになったと言う。

「準備は必要だと思います。ただ私は、終活全体が必要だという考え方ではないんですね。すべての項目を『あ、これやっていない。これもやっていない』とチェックしていくのではなく、気になることがあるなら、それだけを解消していけばいいという立場です」

「終活」という言葉がこれだけ広まると、しなければいけないと焦りを感じて落ち着かないという人も少なくない。ただ、そこまで踊らされることはないというのが岸本さんの考えだ。

「終活という言葉に触発されて、以前から気になっていたことに取り組むのもいいし、言葉は聞くけど、まだ気持ちが動かないというのであれば、それはそれでいいと私は思います。終活しようがしまいがエンディングは来る。それであとに残る人に多少迷惑をかけたとしても、一生に1回だから、それもありかな、というぐらいの気持ちでいます」

50代、60代ぐらいの年齢だと自身の終活以前に、まず80代、90代の両親の終活をどうするか、一向に終活をしようとしない両親にどう向き合うか、という問題がある。また両親に限らず、伴侶との死別も考えられる。いずれにしても、終活と一口にいっても、自身が旅立つときの準備と、遺される側になったときの心構えの両方を考える必要があるのだ。

子が知っておくべきことは、親に借金があるかないか

岸本さんは、両親の看取りや、急に夫を亡くした親族の経験などから、遺される側の立場として最も大事なことの一つに、「故人に借金があるかどうかを確認すること」があると感じた。

「親族の話なんですけど、夫が仕事の都合で離れて暮らしていた先で亡くなったんです。事業を営んでいたので、その関連のお金関係がわからない。借金の有無がわからない限り相続もできないわけで、家の前に停めてある車一つ動かしてもいけないのではないかと悩んでいました」

また親の家の整理にしても、岸本さん自身はそれほど苦労せずにすんだが、事情によって難しくなる場合もある。

「業者に頼んで持ち物を整理する必要が出てくるケースもあると思います。その際に、その費用を相続などでお金が入ってくるのだったら賄えるけれども、借金があってそれができないようなら、相続放棄をしたほうがいい、となる場合もある。借金の有無と、できれば生命保険や資産状況については、生前に親御さんや配偶者に確認しておいたほうがいいですね」

エンディングノートは必要に迫られていない普通の日ほど「書き時」

そんな経験や、40歳のときに自身が虫垂がんを患ったことから、岸本さん自身もエンディングノートを書いておく必要があると強く感じたという。

「でもそのときは書けなかったんです。やはり闘病の最中は、これを書いて入院したら、本当に退院できないままになるような気がして。そこで学んだことは、エンディングノートは、必要を感じないときほど『書き時』だということでした」

岸本さんがようやくそれに着手できたのは、発病から10年を過ぎて、病気の再発や進行の不安に一区切りついたときだった。

「コツは、やはり専用のノートに書くことです。それだと必要項目があらかじめ書いてあって、そこを穴埋めするだけでいい。書き漏れも防げます。それと負担になりにくい薄いノートのほうがいいです。これを1年に1回とか2年に1回は見直して情報を更新することも大事ですね。たとえば誕生日と決めてしまうのもおすすめです」

ノートを書いたらそのことを人に伝える

最初は書き出しただけで満足していた岸本さんだったが、最近になって、その先の「第2段階」が必要だということにも気づき、実行した。つまり、そのノートを書いたことと、保管場所を見てほしい人に知らせたのだ。

「60代になってからは、そのノートの保管場所を、きょうだいときょうだいの子どもたちに教えて、きょうだい同士で互いの資産状況なども情報開示して共有するようにしたんです。昔はそこまで交流もなかったですし、ましてや年金や保険、資産の状況なんか話したこともありませんでした。でも、親の介護を通してそうなりましたね。自分たちもそうなったときに、互いのことをある程度わかっていないといけないと思ったんです」

50代の半ばには、エンディングノートに、きょうだいとその子どもたちへの感謝の言葉を書き足したという。

「情報の部分だけを埋めて自分ではすっきりしていたんですけれども、読む人の気持ちを考えて一言でも贈るといいなと気づいたんです。『介護のときも仕事を続けられたのは、皆さんの協力のおかげです。この資産はみんなでつくったものだと思っています』と書き足しました」

風通しよく前へ進んでいくために

終活といえば、持ち物の整理もその一つ。岸本さんの場合、コロナ禍のときに思い切って大整理をして、従来の8割程度にダウンサイジングした。今はそれをできるだけ超えないように、調整しつつ暮らしている。

アンチエイジング、健康寿命を延ばすために、また将来、介護が必要になったときのために、少しでも筋肉をつけておこうと、ジムに通って加圧トレーニングとダンスエクササイズを続けている。

「車椅子から便座に移らせる動作一つとっても、介護される側に筋肉があるとないとでは、介護者の負担が随分違う。健康と美容のためにも、将来に備えるためにも、運動はとても大切ですよね」

エンディングノートを書くまでは抵抗があったが、書いてみたら、思いのほかすっきりした。

「気がかりなことを気がかりなままにしてモヤモヤしていたのが、すっきりしたんです。『これでいつでも死ねるわ』というすっきりではなくて、モヤモヤが晴れたすっきりですね。終活に取り組むって、いかにもそれを境に終わりへとギアチェンジする感じがあるから抵抗を覚えるんだと思います。でも、そうではない。気がかりな小石とか小枝を払って、風通しよく前に進んでいくためのものなんです。気がかりが晴れると、趣味でも人との交流でも、そのときどきで『今』を楽しめるようになる。その意味では、ぜひ『ご縁ディングノートⓇ』を書くことをおすすめしたいですね」

岸本葉子さんの終活実例

実例① エンディングノートは項目を埋めるタイプを

専用のノートは項目に遺漏がなく便利。1ページ目から書き込むのではなく、自分にとって必要な項目から埋めていくのがおすすめ。誕生日など日にちを決めて年に一度は見直しをする。

実例② 不要な食器類は仕分けして処分用の箱にまとめて

コロナ禍に断捨離を決行。食器棚も整理して、不要な食器は箱にまとめてあとは処分するだけにした。以来、持ち物は入れ替えがあっても、総量を棚の8割ほどに保つようにしている。

実例③ 健康のために自炊が基本。ぬか漬けは20年続けている

健康寿命を長く保つためには、日々の食事もおろそかにできない。積極的に自炊して根菜類の煮物をとるよう努めている。ぬか漬けもその一つ。ぬかみそは20年使い続けている。

実例④ 家でのエクササイズはバランスクッションで

家での運動に使っているのがバランスクッション。厚みと弾力のあるクッションの上に片足で立ったり、両足で半分スクワットの姿勢で体重移動をしたり。おかげで腰痛も解消した。

取材・文/志賀佳織

※この記事は「ゆうゆう」2025年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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