書店の在庫が蒸発した!文庫ランキング第1位の昭和の小説 有吉佐和子『青い壺』が50代女性の心に響く理由とは?
半世紀前に書かれた作品が、なんと、2025年上半期のベストセラー 文庫第1位になった!と話題です。昭和の作家・有吉佐和子の『青い壺』。復刊を担当した文春文庫編集部の山口由紀子さんに取材しました。後編では、「壺」が令和の日本に社会現象を巻き起こしていく様子をお届けします。
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50年前の刊行なのに【2025年上半期ベストセラー文庫1位】の快挙!有吉佐和子『青い壺』が共感の輪を広げる理由とは?瞬く間にネット書店の在庫がなくなった!
2023年、作家・原田ひ香さんに『青い壺』の復刊担当者・山口由紀子さんが依頼した帯の推薦コメント。そのたったひと言が、読者の心を撃ち抜いた。それは、言葉の力を思い知らされるひと言だ。
——こんな小説を書くのが私の夢です——
「これほど力強い言葉を使っていただけるのは、おそらく小説家として一生に一度きり。でも、原田さんから『使っていいと思ったので出しました』と言っていただき、感動しました。そこからジワジワ広がったという感じです」(山口さん)
原田さんのコメント帯の力は絶大で、書店店頭では『青い壺』と『三千円の使いかた』が並べて平積みにされる光景を目にした人も多いはず。書店員さん手書きのオススメPOPもヒットの後押しをした。
もし50年前に「本屋大賞」があったなら、『青い壺』はあるいは大賞受賞作になったかもしれない、と思う。そんな周囲を巻き込む魅力を持つ小説だ。
そして2024年11月。NHK「おはよう日本」で、50年前の小説がこれほど売れている現象がおもしろい、というテーマで9分間の特集が放送されるやいなや、売れ行きにさらに拍車がかかった。
山口さんによれば、「番組終了の8時前にはネット書店の在庫がなくなり、書店の開店前に並ぶ人が現れる……。プロモーションの力ということもあるけれど、それでもすべては『青い壺』という本が持つ力。そして、口コミの力。何より、人に勧めやすい作品だからだと思うんです」
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詳細はコチラ朝ドラでも大河ドラマでもなく、“昼ドラ系”小説
『青い壺』に登場するのは、戦後しばらく経った昭和50年代、高度成長期のさまざまな家庭。年齢も、生活環境も、お金の有る、無しにも幅がある。
だからこそ、読者は登場人物の誰かに自分自身だったり、父や母、友だちの姿を投影できる。そして、自分の悩みや不安、解決の道筋を重ねることもできる。
しかも、そこに描かれる市井の人々の一挙手一投足から、その人間性がまざまざと立ち上ってくるから、読めば読むほどハマっていく。
「それは、有吉さんの絶対的な文章力と誰にでも伝わる的確な描写力があってのこと。リズムがよく、無駄な言葉が一つもない。読者にも、有吉さんなら人間の心の機微も嘘っぽくなく描いてくれるだろう、という信頼感があるのだと思います。言ってみれば、朝ドラでも大河ドラマでもなく、品質保証の“昼ドラ系”小説、とでも言うのでしょうか」(山口さん)
たとえば、夫の仕事がうまくいったとき、とっておきの玉露をそっと淹れる妻。夫が定年になった途端、友人に「男って嵩高でしょう」と堂々と愚痴る妻。夫から久しぶりのディナーに誘われ、つけられるだけのアクセサリーを身につけようとする妻……。
他人の生活を“覗き見”するのは愉しい。そんな蜜の味は、誰かと分かち合ってこそ、より甘くなる。だから井戸端会議があれば人に教えたくなる。そんなことも稀代のストーリーテラーである有吉さんはお見通しだったに違いない。
2025年2月に爆笑問題の太田光さんがTBSのラジオ番組内で絶賛し、その後、帯の推薦コメントにもなった「信じられないくらいに面白い!」が、読者の心境を代弁してくれている。