歌手・ZEROさんが語る、認知症を公表した【橋幸夫さん】との支え合い、特別な「絆」とは?
故郷で愛した歌は、橋幸夫の「絆」だった
先日、アルツハイマー型認知症であることを公表した橋さんを、ZEROさんはステージの上でもそっと支え続けている。そんな二人の絆が、ある一曲によって、さらに深く、運命的なものへと育まれていった。それが、デュエット曲としてこの春にリリースされた「絆」である。
「絆」は、もともと橋さんが1984年に発表した楽曲なのだが、実はZEROさん、子どもの頃に故郷・韓国でこの曲をよく聴いていたという。ただし、それは韓国語に訳されたカバー曲で、タイトルも歌詞もまったく違っていた。そのため、橋さんの歌だとは知らずにいたそうだ。
「ある日、レコード会社の方にすすめられて、橋さんが歌う『絆』を聴いたときには、もう鳥肌が立ちました。『えっ⁉ 僕がいつも聴いていたあの曲は、橋さんの曲だったの?』と。これはぜひ橋さんと一緒に歌わせていただきたいと、ダメもとで橋さんと社長に相談したら、橋さんもOK、石田社長もOK。トントン拍子でCDが完成しました」
現在開催されている「夢グループ20周年記念コンサート」では、橋さんとZEROさんが、この「絆」をデュエットしている。
「青春時代、この曲は僕のカラオケの十八番でした。その曲の原曲者である橋さんと、こうして一緒にステージに立って歌えるなんて、本当に夢みたいです」
そう語るZEROさんの笑顔には、深い喜びと感謝の想いがにじんでいた。
涙で歌えない。ファンと紡ぐ感動のステージ
アルツハイマー型認知症を患う橋さんは、最近ステージで歌詞を忘れてしまうことがある。しかし、病気を公表して以降、客席から温かい歌声が沸き起こり、橋さんを支える光景が見られるようになった。客席とステージが一体となり、まさしく“絆”が生まれるその瞬間、ZEROさんは涙を堪えきれなくなるという。
「橋さんが歌詞を忘れてしまっても、すぐに客席のお客さまが歌って橋さんを助けてくれるんです。その光景を見たら、もうダメで……。僕の出番はその直後なのに、ウルウルしちゃって、泣いて歌えなくなってしまうんです。涙のボタンが壊れて、感情のコントロールが下手になったみたい(笑)。スタッフさんからは、橋さんよりも、『ZEROがちゃんと歌えるのか』って心配されています」
ファンと橋さんが歌声で紡ぐ「絆」。その温かい光景が、ZEROさんの心を揺さぶり、歌うことの喜びと、人と人との繋がりの尊さを、改めて教えてくれているのだろう。
日韓国交正常化60周年を迎えた今年。ZEROさんは、この「絆」という曲を、いつか橋さんと韓国で歌うのが夢だと語る。
人と人との縁、歌との縁を大切に紡いできたZEROさん。彼の歌声と誠実な人柄は、これからも多くの人の心を温め、新たな絆を生み出していくに違いない。
撮影/園田昭彦
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