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【認知症母との介護生活#31】捨てられない穴の開いた靴下と、捨ててしまった父の海軍時代の帽子

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更新日

ぱいなっぷりん

60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。

▼「認知症母との介護生活」マンガ 1話から読む▼

>>想像の遥か上を行く発想をする母に、考えたことは?【認知症母との介護生活#1】

靴下の穴



母が デイホームに出かけるのに
着替えを 手伝っていた時

靴下に 穴を発見

私が それを指摘すると

母は
無視したり 拒絶したりするか

と 思いきや

あらまあ ホントだわ
履き替えなきゃ

デイホームで 時々
靴を脱いで 体操するのよ
これじゃ 格好悪いわ

そう言って
すぐ 靴下を脱いだ

珍しく まともな反応で
ちょっと びっくり
ちょっと ウレシイ

そして その後
私が その靴下を持って
部屋を出ようとした時だった

ちょっと待って!

その靴下
まさか 捨てるんじゃないでしょうね?

母が
ドスの効いた声で 聞いてきた

いや
その まさか なんだけど

とは言えず
沈黙する 私

母は こういう時
認知症とは思えない 鋭さで
私の心の中を 瞬時に見透かす

返してっ

と 私から靴下を奪い
それを ベッドの隅に ねじ込んだ

繕えば まだ履けるわ
デイホームから帰ったら やるから

ウ~ソ~だ~ね~

私は 心の中でつぶやいた

だって
母の短期記憶は
すぐ 消滅する

デイホームから 帰ってきた時には
繕うことは おろか
その靴下の存在さえ
覚えてなんか いないだろう

私は
母が部屋を出た 後
こっそり 部屋に戻り

ねじ込んでいた靴下を 取り出し
ゴミ箱に捨てた

母が 家を出る前

私は
母に 声をかけた

おかあさん
私 今 断捨離してるの

ものが減ると 気持ちがいいよ

おかあさんの部屋も
少しづつ 荷物を減らしていこうね

その言葉が 母に響く とは
まったく思わなかったけど

母の意に反して 靴下を捨てた
ちょっとした後ろめたさを
薄めたくて

そして
その夜だった

マンガに描いたように
廊下のゴミ箱に
父の 海軍時代の帽子が
捨てられていたのは

父と 私は
いい親子関係ではなかったけど

それでも 父が
戦時下に 青春を過ごし

結果として 戦争に加担し

その後悔と 贖罪の気持ちと
生き残ってしまった 後ろめたさを
感じていただろうことは

そばにいて
なんとなく わかっていた

我が家は 転勤族で

ものを所有することには
一切こだわりがなかった 父

いつも 家族の中で
一番 持ちものが少なかったけど

でも
戦時中の制服と 制帽だけは
父の
その重い思いの 象徴として
処分されることなく

必ず 父の荷物の中に
あった

そして

身の回りのことは
一切母任せだった 父の
引っ越し荷物に
それらを入れていたのは

いつも 母だった

その帽子が

ゴミ箱の中に あったのだ

私は 混乱した

誰よりも
父の思いを理解していたはずの
母が

いったい どういうつもりで
これを 捨てたのだろう

朝の 私の言葉を受けての
終活へ向けての
思い切った 断捨離か?

ちょっとした ウッカリか

それとも
母の 心の奥にある
父への思いに
なにか 変化があったのか

それとも

もしかして やっぱり

認知症の母の目には
もはや この帽子は

ただの 薄汚れた
ゴミに映ったのか

穴の空いた靴下以下の

だとしたら

認知症 という病気は
せつない

ゴミ箱から救い出した
半世紀ぶりに見る その帽子は

古い汚れの ひとつひとつに

シミの ひとつひとつに

錆びたボタンの ひとつひとつに

父の思いが感じられる気がした

この帽子も
いつかは ゴミとして
誰かに 捨てられてしまうんだろうけど

▼次回はこちら▼

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