「あんぱん」ヒロインの前にどんどんレールが敷かれていく【朝ドラ】らしさ。そのスピード感に驚かされた

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メタ的な視点でもど真ん中の展開だ

今田美桜主演のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第16週「面白がって生きえ」が放送された。

舞台は前週に続き、ヒロインのぶと嵩（北村匠海）が所属する雑誌『月刊くじら』の東京取材での様子から始まる。そして、のぶのこれからの歩みの、大きなターニングポイントとなるような位置付けの週となった。

東京・有楽町で出会った「ガード下の女王」薪鉄子（戸田恵子）、彼女こそがのぶたちの取材対象者、高知出身の代議士である。戦災孤児やこの時代には弱い立場である女性たちの味方という頼もしい存在だ。

「今日を生きるのに精いっぱいの人たちに目をむけるべき。やらなければならないのは飢餓問題」
と、政治家となった理由を語る鉄子。政府は敗戦処理に追われるが、大切なのは多くのまだまだ復興とは程遠い多くの人々の存在である。

「一番困っちゅう人らぁの声を聞くためや」
生活困窮、なかでも飢餓で困る人たちを助けるという姿勢、これはもう、嵩のモデルでもある、やなせたかしの『アンパンマン』の姿そのものである。

「あんぱん」第76回より（Ｃ）NHK

念のため記しておくが、鉄子を演じる戸田恵子はアニメ『それいけ！アンパンマン』のアンパンマン役だ。ある意味での〝本物〟との出会いは、嵩とのぶにとってのこれからに、大きな影響を与える人物として登場したアンパンマン。メタ的な視点でもど真ん中の展開である。

鉄子に速記やカメラのことから始まり亡くなった夫・次郎（中島歩）のことを語るのぶ。その苦労に共鳴するように思いを熱く語る。
「うちはね、どんな手を使うても目の前に困っちゅうひとがおったら、助けたいがや。どん底からみんなで這い上がって、いつかみんなで笑いたいがよ」

自身の顔を差し出し食べろというアンパンマンの姿が重なって見えてくるようだ。

そんな強い信念を持つ鉄子に対して、新聞社に入社し雑誌編集部で記事を執筆しているものの、実は本当にやりたいことが見つかっていないと思いを打ち明ける。そんなのぶに、
「答えがみつかってないがやったら、あてと一緒にさがしてみんかい？」
と鉄子に言われ、のぶの心は揺れる。

のぶが愛用するカメラは、次郎の遺品でもある。このカメラに、それこそ次郎の愛ゆえ撮れたかのような、たくさんの笑顔ののぶが収められてきた。そんな深い思い出の詰まったカメラだ。そのカメラが子供にひったくられる。そこに現れカメラを取り戻し子供たちに人のものを盗んではいけないと諭してくれたのが、かつての嵩の上官、八木（妻夫木聡）だった。

八木もまた、困窮する孤児たちにパンを配り、ゴーリキーの『どん底』を読み聞かせ、彼なりの形で子供たちを救おうとしている。八木、そしてそこに集う子供たちに取材し、当初のテーマであった「ガード下の女王」でなく、八木の記事をしたためた。編集長の東海林（津田健次郎）は、当然なんだこれはと問うが、のぶはどうしてもこれを書きたかった、そして嵩も読者の心をつかむはずと援護し、そのまま再構成し、鉄子でなく八木についての記事が掲載される。

発売された『月刊くじら』を見た鉄子から編集部に電話がかかってくる。抗議の電話かと思いきや、
「薪先生は、お前の記事を素晴らしい記事やと絶賛しよった」（東海林）
そして、
「薪先生はおまえに仕事を手伝って欲しいそうや」
と、東海林に伝えたのだった。