最終回【あんぱん】が教えてくれた、人生100年時代の歩き方「何歳になっても…」
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」、最終回のレビューです。
※ネタバレにご注意ください
二人が一緒に歩いた人生を描いた作品だ
今田美桜が、国民的作品『アンパンマン』原作者やなせたかしの妻・小松暢をヒロインとして演じたNHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送が、9月26日に終了した。
やなせたかし夫妻が歩んだ道のりと周囲の人たちを下敷きにしながら、ドラマならではのキャラクターやエピソードもバランスよく織り込まれ、まとまりよく半年間を駆け抜けた印象だ。
たとえば『マッサン』などがそうだが、多くの人に知られる大きなことを成し遂げた史実を元にした作品は、いつそこにたどり着くんだろうというところが視聴者にとって気になるポイントのひとつとなる。
本作では「アンパンマン」がいつ誕生するかというところだが、北村匠海が演じた柳井嵩がそれを描く場面が第1話の冒頭で示されたことで、その場面にいつつながるんだよと苛立ちを感じさせる展開とならなかったところは、本作に登場したキャラクターたちがそれぞれ魅力的であったことであまり気になることなくストーリーが進行したということだろう。
現在も親しまれるアニメ『それいけ!アンパンマン』は、まさに〝満を辞した〟というべきか、最終週「愛と勇気だけが友達さ」についに登場した。いってみれば、『アンパンマン』が国民的作品となるまでの人気を獲得していくのはそこからだ。
そして、多くの人が知っている、派手寄りのファッションでメディアなどに登場したやなせたかしの姿となるのは最晩年になってからのことで、これらは妻の暢さんがこの世を去ってからの晩年の期間のこととなる。ドラマでは、これらのぶの死後は描かずラストシーンまでのぶの明るい笑顔は消えることなく幕を下ろした。
極論すれば、これはのぶと嵩、二人が一緒に歩いた人生を描いた作品だ。国民的作品の誕生という偉業はもちろんだが、一番大切にした部分がそこにあったような気がする。だからこそ、実際には新聞社に勤務したころに出会った二人は子供時代に高知で出会い、同じ空気を吸い同じ経験を重ねていく人生を歩んでいった。
もちろん史実通り社会人になって出会うまで、のぶと嵩を別のルートで2本立てで成長させることもできたかもしれないが、明らかに大変だろうし視聴者の興味も散漫になってしまったかもしれない。のぶが成長して新聞社に勤務して、ようやく嵩が登場するよりも、のちの夫婦が幼馴染であるということで周辺の人物たちとの関係性が濃密に描かれたことも効果的な改変といえる。
朝田家の三姉妹(これも実際には二人姉妹だったわけだが)、ふたりそれぞれの父親(加瀬亮、二宮和也)や、そして嵩の育ての父のような存在であり、「何のために生まれて何をして生きるがか」をはじめ、のちのやなせたかし作品のテーマを思い起こさせる言葉などを語りかけ、のぶにも大きな影響を与えた寛(竹野内豊)、そして口は悪いが要所要所で登場し、キーアイテムである〝あんぱん〟を焼き続けたヤムおんちゃん(阿部サダヲ)をはじめとしたキャラクターたちによって二人が成長していったことも大きなポイントだ。
寛がのぶの背中を押した、二人が歩む速度は違ってもいつか一緒になるという言葉通り、最終週は多忙のなか二人が一緒に散歩している場面にそれを感じ、着地のうまさというか、やはりのぶと嵩、二人が幸せに歩ける時間を一番大切にしたい作品だったような気がした。
