「あんぱん」ヒロインの前にどんどんレールが敷かれていく【朝ドラ】らしさ。そのスピード感に驚かされた
公開日
更新日
田幸和歌子
「どんな大変なことでも面白がって走れ」
朝ドラというものは、ヒロイン至上主義みたいな一面を持つことは珍しくない。そういう意味ではこのいろいろとうまく転がる、ある意味ヒロインにとってのご都合主義的な展開もひとつの〝朝ドラらしさ〟という見方をすることもできるだろうか。史実でも、のぶのモデルとなった小松暢がつとめていた期間はさほど長くないようだが、それにしても次のステップのためにきちんと整備され、かつスピード感ある展開の速さには少し驚かされた。
その話を妹のメイコ(原菜乃華)にし、
「ほんまは行きたいがやろ?」
と本音を指摘されるようなセリフも、これからの展開へのお膳立て的なセリフといえる。周囲がヒロインをお膳立てして前に進ませてくれる。その言葉を受け、必死に考えてみる、夢を取り戻すと決意を表すのぶ。
前週よりひどく咳き込んだりしていたのぶの祖父・釜次(吉田鋼太郎)も、調子の悪さを隠しつつ、のぶたちの亡き父親である結太郎(加瀬亮)の形見の帽子に、「結太郎、おまん、知っちゅうがか。のぶの大志がどこにあるがか」と語りかけるようにして背中を押してくれる。
「これからは遠慮のう、大志を貫いてほしいがじゃ」
のぶが上京し、鉄子のもとへ行くレールがどんどん敷かれていく。釜次は、自分の運命も悟っていたのだろう、どこか遺言のように、のぶに向かって、待っている人がいるならそこに向かって走れ、昔からそうやってなりふり構わず全力で走ってきたのだからとエールを送る。
「間違うても、転んでもえい。それも全部、面白がって生きえ」
どんな大変なことでも面白がって走れ、面白がって生きろ。それが釜次が孫ののぶに伝えたいことだった。
東海林はのぶに、本来の企画と違うものを書いたことなどを理由に「記者に向いていない」と切り捨て辞めるよう持ちかける。もちろんこれは本心ではない。これもまた、のぶがよりのぶらしさを見つけられるようにという東海林なりのやさしさだ。
まもなくして釜次はこの世を去る。最後の締めの言葉、「ほいたらね」が釜次の口から発せられたのも粋な演出だ。
さて、葬儀の場に偶然高知に戻ってきた草吉(阿部サダヲ)は、勝手に旅立ってしまった釜次を口では責めながら、感謝の思いをかたちにするように釜次の釜でトウモロコシの粉と芋のあんを使った「あんぱん」を焼き、供養のようにみんなで食べる。悲しいときにはあんぱんを食べる。序盤から大事な場面で描かれてきた演出がここでも発揮され、のぶの東京行きを総出で盛り上げるような空気に全体が包まれた。
のぶはどう決心するのか。次の展開を見守りたい。
▼あわせて読みたい▼
>>朝ドラ【あんぱん】二人の距離がどう変化していくのか、中園ミホ脚本の魅力が発揮されそうだ >>朝ドラ【あんぱん】速記のメッセージは最大級の愛か。死期を悟った次郎が、これからの話をしようと、のぶを励ます >>朝ドラ【あんぱん】を見て、戦争と平和を想う。現実のニュースとドラマが重なり、やるせなさが心を包む