【あんぱん】戦後をたくましく生きる女性たち。その中にひとりちんまりと座る嵩(北村匠海)のフィット具合が絶妙だ
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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ようやく、結婚に向けた二人の生活が始まる
嵩とのぶ。このドラマを二人が寄り添いながら進む人生を描く作品とするならば、今週はひとつのクライマックスといっていいのではないだろうか。
『アンパンマン』の原作者やなせたかしとその妻の小松暢をモデルとし、NHK連続テレビ小説『あんぱん』第18週「ふたりしてあるく 今がしあわせ」が放送された。
前週の後半で、北村匠海演じる嵩が「若松のぶさん、ぼくは朝田のぶの頃から、あなたが好きでした」と、今田美桜演じるのぶに気持ちを伝え、のぶも「嵩はなくてはならん人や!」と答え、幼なじみであるが進む速度が違ったり道が変わったりしてなかなか交わることのなかった二人の道がようやく交わった。結婚に向けた二人の生活が始まる。
「実は、新聞社やめた」
雑誌『月刊くじら』の編集部員として活躍していた嵩は、発行元の高知新報を退職した。その理由には、このドラマが序盤から問いかけ続け、嵩がずっと考え続けてきた「逆転しない正義」がある。
『月刊くじら』編集長の東海林(津田健次郎)もそこを見抜いていて、嵩にこう言った。
「『仕事よりも大変な使命がある』。入社試験で戦争について聞かれたとき、おまえはこう言いよった」
東海林いわく、性格が正反対ののぶも、同じようなことを言ったという。
「何年かかっても、何十年かかっても、二人でその答えをみつけてみ」
東海林からの大きなエールを受け、嵩は上京、のぶの住む部屋を訪れた。そこに待ち構えていたかのように現れたのが、嵩の母、登美子(松嶋菜々子)だ。
「無職の嵩でいいの?」
と笑みを浮かべながらのぶに言うさまは、3人目の夫と戦争で死別したという今も変わらぬ雰囲気だ。
まずは思い切り漫画を描きたいという嵩の思いと、才能を信じ、応援したいというのぶに、
「才能があるなんて、嵩をそそのかすのはやめてちょうだい」
と水を差す登美子。嫁姑のバチバチした空気は、すでに結婚生活がスタートしているかのようだ。
「ここでよく父さん(清・演:二宮和也)と待ち合わせした」という喫茶店に嵩と二人で訪れた登美子は、嵩に三星百貨店への就職をもちかける。ちゃんとしたところで働き、のぶさんを安心させること、それが男としてのつとめであると。
その言葉を受けた嵩は無事試験に受かり、三星百貨店のデザイナーとして働くこととなる。代議士の鉄子(戸田恵子)の元で働くのぶが、弱者の声を拾うため通い話を聞き続けているガード下の女性たちは、一流百貨店への就職を祝福するが、肝心ののぶは、とまどいを見せ、作り笑いを浮かべる。夢を追いかけてほしいという思いとのズレがそこには存在する。
「嵩は漫画を描くために上京した。そのためなら貧乏でもええがです」というのぶに、鉄子の秘書・世良(木原勝利)も、「不幸のにおいがプンプンしますね」と半ば呆れ顔だ。生きていくため、食べていくために必要なことと、夢を追いかけること、現実と理想は、なかなか簡単に一致するものではないことは、誰もが抱える悩みである。
言うまでもなく嵩の本音は好きな漫画を思い切り描きたいである。そんな漫画界にも大きな革命が起こっていた。手嶌治虫、言うまでもないが手塚治虫をモデルにした天才漫画家である。嵩の元上官であり、戦後も二人にとって重要な心の拠り所となっているような存在の八木(妻夫木聡)が話題の手嶌は医学生でありながら漫画を描いていると言う。
手嶌の作品に大きな衝撃を受け、猛烈に焦ると言いながらものぶちゃんを幸せにするためには働かなければならないという嵩に、「らしくないな」と言いながらもいったん認める八木だった。
