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【べらぼう】江戸のヒットメーカー・山東京伝(古川雄大)と恋川春町(岡山天音)のユニークな生涯とは?

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鷹橋 忍

出版取締令の違反対象に

やがて渡辺謙さんが演じる老中・田沼意次(おきつぐ)が失脚し、天明7年(1787)6月に老中首座に就任した井上祐貴さんが演じる松平定信(さだのぶ)が、いわゆる寛政改革を主導するようになります。

寛政3年(1791)正月に蔦重のもと刊行された京伝の3冊の洒落本『仕懸(しかけ)文庫』、『錦之浦(にしきのうら)』、『娼妓絹籭(しょうぎきぬぶるい)』が、この改革の出版取締令に違反しているとされ、3冊の洒落本は絶版。

京伝は手鎖50日(両手に手鎖をはめ、自宅謹慎)、蔦重は身上に応じた重過料(罰金刑)に処せられてしまいます。以後、京伝は洒落本の筆を折り、やがて読本(よみほん)など、別のジャンルに移行します。読本とは「中国の俗語で書かれた小説や、日本の古典文学などをふまえた知的な小説(佐藤至子『山東京伝 滑稽洒落第一の作者』)」のことです。

【べらぼう】江戸のヒットメーカー・山東京伝(古川雄大)と恋川春町(岡山天音)のユニークな生涯とは?(画像3)

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第29回より ©NHK

33歳ではじめて仕事に就く?

寛政4年(1792)、京伝は書画会(御祝儀をもらい、色紙や短冊に絵や狂歌を書くイベント)を開催しました。書画会の収益と借入金をもとに、翌寛政5年(1793)、33歳の時に京橋銀座一丁目に彼がデザインした煙草入れなどを商う「京屋伝蔵店(京伝店)」を開業しています。これがはじめて就いた、仕事らしい仕事です。京伝の父・岩瀬伝左衛門は、この時もまだ家主の職に就いており、一家は安定した生活を送れていました。ゆえに京伝は働く必要がなかったのです。

京伝は商品のデザインを考案するだけで、経営を取り仕切っていたのは父だったようですが、店は大繁盛したと伝えられます。このことから、京伝は「商業デザイナーの元祖」とも称されるといいます(山村竜也監修『蔦屋重三郎 江戸のメディア王と世を変えたはみだし者たち』)。

妻は2人とも遊女

京伝は寛政2年(1790)2月、30歳の時に吉原の扇屋の遊女・菊園(きくぞの/お菊)を娶っています。ですが、菊園は京伝店を開業した年の秋に、30歳でこの世を去ってしまいます。その後、しばらくは独身でいましたが、寛政12年(1800)の冬、吉原の弥八玉屋の遊女・玉の井(百合)を身請けし、妻としています。京伝は40歳になっていました。

文化13年(1816)9月6日、京伝は56歳で急死します。京伝店を営んでから生活に困ることもなく、晩年は考証随筆の研究に没頭したといいます(棚橋正博『山東京伝の黄表紙を読む 江戸の経済と社会風俗』)。悪くない晩年だったのではないでしょうか。

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