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認知症の母がMRI検査に挑んだ1日が、とても大変だった話【認知症母との介護生活#59】

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更新日

ぱいなっぷりん

60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。

▼「認知症母との介護生活」マンガ 1話から読む▼

>>想像の遥か上を行く発想をする母に、考えたことは?【認知症母との介護生活#1】

母のお気に入り~鹿児島のお菓子

認知症母の
乳がんが わかって以降

怒涛のような
忙しい日々が 続いている

検査や 診察
入院のための説明 などで
母を連れて
病院に行くことが 多く

一人暮らしの 認知症の人が
病気になって
手術をすることになったりしたら
いったい どうするんだろう

それって
明日の  自分ごとかもしれないよ

なんて 思って
結構 マジで 心配したり

今更ながら
娘に 全面的にお任せの母
って
ずいぶん 恵まれているけど
わかってるのかな

と思ったり

先日
MRIを 撮った日のこと

検査前の2時間は
禁食
ということだったので

2時間
母の口に
食べ物を入れさせない
ってのは
結構なプレッシャーだった

だって
母は 記憶が留まらない
認知症

ちょうど
昼食の時間だったけど

私も 母に付き合って
空腹のまま
傍で 過ごしていた

ただ
私には
病院に行く 前に
どうしても 出しておきたい
郵便物があった

一瞬 迷ったけど
A4の紙に デカデカと
禁食
と書いて テーブルに置き

母に言い含め 且つ マスクもさせ

近所の郵便局に行って 帰って

わずか 7分後

リビングのドアを 開けた時
私の目に 飛び込んだのは

先刻までは
テーブルになかった 菓子器の
蓋を ずらし
その下に 半分挿し入れられた
母の指だった

食べたの?

そう 叫びながら
私は 真っ先に
菓子器の中を チェックした

中にあった甘納豆が 減ってる
…気がする

食べたの?

もう一度 言いながら

母の 口元の匂いを 嗅ぐ

手をとって その匂いも 嗅ぐ

焦りながら
いろいろチェックする私に
母は

食べてないわよ
食べるわけ ないじゃない

と答える

けれど
その言葉は

私には
詐欺師のささやく
耳触りのいい 嘘にしか
聞こえない

これは
郵便局に行った 私のミスだ

行くべきではなかった

だけど 日々の雑用は
次々 生まれて
できる時にやらないと 終わらない

その書類だって
なるべく早く 送っておきたかった

だからこそ
禁食 と書き
マスクをつけさせ

アラカンが
小走りし 息を切らせながら
行って 帰ってきたのだ

なのに

想像の斜め上を行く
まさかの顛末

頭の中で
色々な思いが
ぐるぐると駆け巡る

時間が 刻々と過ぎていく

MRIを受けるなら
もう 出かけなければ

私は もう一度
件の菓子器の蓋を 開けた

減っている気がした 甘納豆は
果たして
本当に減っていたのか

わからなかった

テトラ型に
個包装してあるものでも
恐らく わからないのに
袋に ザラリと
バラで入っている 甘納豆が
減っているのか いないのか
わかるわけがない

MRI検査は
10日後の予約が やっと取れた
検査だ

もし 今日の検査が
延期になったら
また 10日
待つことになる

そして
すべての治療が 先送りになる

手術の予定だって

先生は

母のがんは 進行の早いがん

だとおっしゃっていた

だから なるべく早く
手術をしたい と思っています

とも

母が食べたか 食べないか
事実は 闇の中

その不明なことを前提に
どんなことが起こるのか
様々な可能性を 考え
最善の答えを 出したところで

それが 最善であるかどうかは
不明だ

つまり

結局

この場合

どういう答えを出すか

そのひとの 人生観とか 価値観
生きる姿勢の 問題だ

私は
母を 病院に連れて行って
MRIを受けさせた

終わって 出てきた時
母は
自力で 立てないくらい
ふらふらだった

苦しそうに
廊下の椅子に 崩れ落ち
喘ぎながら

く…苦しい

と呟くのが やっと

もしかして
甘納豆のせい?

そんな思いが 頭をよぎる

いやいや まさか

…そうなのか?

もしかして
バリウムが
身体に合わなかったのか

そういえば 事前に

不測の事態が起こった時は…

と書かれた紙を 渡され
サインした記憶が ある

でも 母は今まで
バリウムで トラブルになったことは
ないはず

看護師が
心配そうに 母の顔を覗き込む

大丈夫ですか
少し 横になりますか

そう 言って
持ってきてくれた ストレッチャーに
横になったけど
母は 尚も苦しそう

看護師さんが 医師を呼びに行き

目も覚めるような 美人先生が
(↑不要な情報)
やってきた

吐き気はしませんか? 頭痛は?

と質問するけど
母は 苦しげに
首を 横に振るばかり

先生は 困ったように
脈を取ったり
呼吸を確かめたり

そんなことをしながら
数分経つと
呼吸が 少し落ち着いてきた

あ 少し 落ち着いてきましたね
ずっと下向きで 固定されていたので
ちょっと 苦しくなったのかな

先生が
ホッとした声を 出した

その 直後だった

母の 胸からお腹にかけてが
急に 激しく上下に 波打ちだした

それは
見たことのない

まるで お腹の中に
龍を飼っているような 動きだった

美人先生は(←不要な情報)
急いで 別の先生を 呼びに行き

その間も
母の 胸からお腹にかけての
ビッグウェーブは
治まる気配が ない

そのうちに
次々と 先生たちが集まってきて

ヒソヒソと

こんな症例 始めてだな

とか

取り敢えず 点滴か?

なんて 話している

そして 美人先生は
(↑だから 不要な情報だって!)

乳腺外科の担当の先生に
連絡をとったんですが
今 手術中で

終わり次第
来てくださるとのことです

と言い

何かあったら すぐ対処しますから
安心していてください

という言葉と共に
去っていってしまった

残された 私は
スマホで
母のビッグウェーブを 撮影した

後々 なにか
役に立つかもしれない

できれば それは
あとになって
ネタとして みんなで笑う

そんな役の立ち方に なってほしい
と 切に願ったけど

でも それにしても

まさか 手術の前の MRIの段階で
こんなトラブルが 起こるなんて

体力がある といえども
やはり 高齢者

こういうことも
想定しておくべきなのか

その後
時間が どのくらい過ぎたか
わからない

当の母は
息苦しさが
大分 薄れてきたようで

自分のお腹の ウェーブの激しさを

見て 見て おもしろいわよ

な〜んて
笑う余裕も 出てきた

その後
再度 先程の美人先生が(←……)

まだ お腹の動き
治まりませんね

と言いながら
点滴の機材を 持ってきた

えっ 点滴ですか

と声を上げる私に対して

あ まあ これは ほぼ水です
水分不足でも
体の不調って 起こるので

と 先生

私は
顔の前で 手を振って

いや そうではなくて
点滴するなら
その前に母を
トイレに 行かせたほうが
いいのでは と思って

と 最近 下が大分緩くなった
母の顔を見ながら
言った

母も

そうねえ 行っておきたいけど
起きれるかしら

などと 言いながら
私の腕を掴んで
起き上がろうとした

私は
車いすを 持ってきてもらい
まだふらつく 母を乗せて
トイレに連れて行った

母は
トイレの個室に 入ったきり
なかなか出てこなかった

中で 倒れているのでは?
と心配して
何度か 声をかけたくらいだ

まあ
ショーツと ズロースと 腹巻きと
シャツが2枚と ズボンで
母のお腹周りは バウムクーヘン状態

時間がかかりがちではあるんだけど

トイレから 戻ってくると
先生は
すでに 点滴の準備を終えていた

母が 再度
ストレッチャーに 横になって

先生が その母の腕を取り
針を刺そうとした その時

一瞬
先生の手が 止まった

あれだけ 激しかった
母の
胸部から腹部にかけての 動きが
完全に 止んでいたのだ

顔色も
驚くくらい よくなっている

先生は
少し 躊躇したように見えたけど
そのまま
点滴の針を刺しながら
言った

ま 点滴は
全部入れることも ないので
気分が良くなったところで
止めてもらってもいいですよ

気分が良くなったところで

と言われても
母の気分が もう すでに
良くなっていることは
誰の目からも 明らかだった

そして
その変化は

トイレに行った 直後に
起こった

…ってことは

先生も

その場にいた 看護師も

私ですら

おそらく みんな
口には出さなかったけど
思ってたはずだ

な〜んだ あのウェーブ

ただの ガスだったんじゃん

だから だと思う

後日
あの日 手術で来れなかった
担当医の診察が あったけど

先生は
あの一件について
一言も 触れなかった

ただ 淡々と
MRIの画像を示して
入院と手術の 日程と
それに伴う 手続き等について
話していた

手術は
2週間後に 決まった

がんは まだ大きくはないけれど
高齢なので
何が起こるか わからない

今回のMRIのことで
私は 強く そう思った

とはいえ
心配ばかりしていても
しょうがないので

それまで
いつも通り
母と 笑ったり 喧嘩したりして
過ごすつもり

そうそう
その間に 母の誕生日もあって
子どもたちも
来る というので

みんなで 楽しく過ごせたら
と 思ってる

あの日 撮った
ビッグウェーブ映像も
あることだし

▼次回はこちら▼

>>認知症の母を入院させるまでの、家族の気遣いと葛藤とどんでん返しと【認知症母との介護生活#60】

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