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認知症の母を入院させるまでの、家族の気遣いと葛藤とどんでん返しと【認知症母との介護生活#60】

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ぱいなっぷりん

60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。

▼「認知症母との介護生活」マンガ 1話から読む▼

>>想像の遥か上を行く発想をする母に、考えたことは?【認知症母との介護生活#1】

えー!母がインナーマスクに使っていたもの

認知症母の
入院までの 日々は
ちょっとした スペシャルデイズ
だった

娘から
豪華な花束を もらってたし

久しぶりに 美容院に行って
パーマをかけ

ショッピングに行って
洋服を 買い

普段は まず 行かないような
お高いレストランで
外食も した

あまりに 楽しいことの連続で
その後に起こる出来事に
イヤな予感しか しないくらい

その スペシャルが重なった
理由の一つは

母の お誕生日だったこと

そして もう一つは

手術に向かう 母の気持ちを
周りが それぞれ
盛り上げようとしたから

母は 最初のうち
自分が がんであることが
なかなか 記憶として
定着しなかったんだけど

定着した後は
人並みに 落ち込んでいたから

大好きなデイホームでも
まったく 元気がなくて

まるで
♫山口さんちのツトム君♫ 状態
だったらしい

そして

あの病院は だめよ

先生は ヤブばっかり

と 根拠のない
失礼極まりない 下げ発言を
連発

何 言ってるの
あの病院で
がんを 早期発見
してもらったんじゃない

手術の予定も
早く 入れていただいて
むしろ 感謝しないと

私が そう言ったところで

母から
その 感謝するべきことの 記憶は
すっぽり 抜け落ちているから

暖簾に腕押し 糠に釘

というわけで

入院前日に
私が 持ち物を整えている横でも
母の 悪あがきの文句は
続き

当日 朝

車で 病院に行く 道々

母は
口を開かず
不機嫌そうに 外の景色を観ていた

私は
母が いつ

入院は イヤだ

とゴネ出すか
戦々恐々としていた

もし ゴネたまま
無理やり 入院させたとして

高度先端医療の提供を目的とした
この特定機能病院では

認知症患者の 妄言に
丁寧に寄り添うような対応を
期待は できない

だけど
母に そういったことが
理解できるはずも なくて

慣れない環境で 不安になって
看護する側が 困るようなことを
言ったり やったり
するかもしれない

認知症高齢者は
術後 せん妄が起こって
暴れたり 暴言を吐いたり
といったことが起こりやすい
というし

せめて
私が一緒にいれば
少しは 落ち着かせることが
できるかもしれないけど

今は コロナ禍で
一度 入院したら
退院まで 会えない という

もう 最悪なことしか
想像できない

そんな 私の気持ちを
知ってか 知らずか

いや 絶対知らない
と確信するに 十分なセリフを

母は
病院に着いて 開口一番
言ったのだった

あら ここは病院ね
今日は 何しに来たの?

今 この期に及んで
手術をすることを
忘れているなんて

いやはや
さすが 認知症

心の中は
ドヒャーン という気分だったけど
私は 努めて冷静に
言った

おかあさんに
乳がんが見つかったから
今日から 入院して
明日 手術するんだよ

えっ 明日 手術?
私が?

目を丸くし
ロビーで 驚きの声を上げる 母

振り向く 周りの人々

聞いてないわよ そんなこと

はあ? 何度も言ったじゃん

だって 私
どこも悪くないのに?

悪いんだよ!
だから 手術するんじゃないの?!

ひそひそ声(←の発声だけど 実は結構大声)で
イミフな言い合いをする 母娘

周りの人の耳が
ダンボになっているのが わかる

その時
ロビーの一角にある
病院の 広報モニターに映る

個室のご案内

という文字が
目に飛び込んだ

最上階の ラグジュアリーな空間で
癒やしのお時間を

とか 何とか
一泊10万近い個室が 紹介され

その後 出てくるのは
段階的に 安価にものなっていき

一番最後に
一泊3万円ちょっとの
シンプルな個室が 映った

その瞬間 私の脳が
ピピピ
と反応した

3万円×4泊=12万円

私は 日々
結構 質素に暮らしている
と思う

見栄を張ったり
身の丈に合わない 贅沢に
興味はないタイプ

だけど
今回

個室に入れば 母と面会ができる
というのなら

それは 意味のある出費だ

私がいれば
母は 落ち着いて

恐らく 病院にかける迷惑も
少なくなる

お金は
こういう時 遣うために
あるのではないか

私は
ダンボ耳の合間を 縫うように
入退院受付カウンターに行き

入院手続きより 先に

3万円の個室 空いてますか

と聞いた

今日から 入院する母が
認知症なので
入院中 面会できる方がいいな
と思って

すると
忙しげな 受付の人は
モニターから 目線を外さず

個室でも 面会は禁止ですよ

と事務的に言い

それより 入院の書類を
早く渡して
という感じで
私に向かって 手を出した

一瞬 煌めいた と思った
希望の光は
すぐに 消えて
なくなってしまった

結局 私は

不安そうな顔の 母を
ナースステーションの前に 置いて

担当だという 看護師に

くれぐれも よろしく

と頭を 何度も下げ

病院から
ひとり 帰った

帰る道々

私は
病院での母の様子を 心配する
その一方で

心配しても 仕方ない
と開き直った先に

少しの開放感も 感じていた

4泊5日のあいだ
どうやって 過ごそう

私は
久しぶりの
自分の為だけに使える 時間に
ワクワクしていたのだった

▼次回はこちら▼

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