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「”国宝トーク”をしている間だけは現実を忘れられる…」アラフィフ女子が映画『国宝』に熱狂する本当の理由

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藤岡眞澄

興行収入100億突破の大ヒット映画『国宝』。リピート鑑賞に余念のないアラフィフ女性も目立つ。自身も気づけば4回目という60代のライターが、その熱狂の秘密を探ります。「みんな、だんなさまには飽きているから、日々を生き生きさせてくれる“推し”がほしいのだ」——そんな本音が隠れているのかもしれません。(※本記事には一部ネタバレが含まれます)

これはまるで、アイドルの“推し活”ではないか!

「『国宝』、観た? 観てない⁉ だったら、騙されたと思って観て。『観てよかった!』と思うはずだから」—— 同世代の友人と会う度に、口をついて出るこの言葉。なぜか、頼まれてもいない“口コミ布教”に励む今日このごろ。公開2カ月余りで興行収入は105億円(2025年8月17日現在)を超えた、と聞いた。

たとえば私。時間を見つけては映画館に足を運んでリピする、パンフで基礎知識を頭に叩きこむ、原作の『国宝』(吉田修一著・朝日文庫)は2日で読破、日々SNSで情報収集。そして、『国宝』推しの友人との“国宝トーク”……これってまるで、アイドルの“推し活”だ。

しかも、“国宝トーク”をしている時間だけは、目の前にある老後資金や年金問題、健康診断の数値、親の介護……。そんな憂鬱な現実を一切、忘れられる。昼下がりのカフェで、みんなで遠い目をしながら束の間、あの“美”の世界にたゆたう至福の時間を過ごせるのだ。

吉沢亮演じる女形が、底知れぬほどに美しい

『国宝』は、任侠の家に生まれ、抗争で親を亡くし、歌舞伎の看板役者である花井半二郎(渡辺謙)に引き取られた主人公の喜久雄(吉沢亮)が「人間国宝」に上り詰めるまでを描く一代記。半二郎が喜久雄の女形としての天賦の才を見抜き、御曹司である息子の俊介(横浜流星)と“W女形”として競わせようと一計を案じたことから、2人は“血”か“芸”かの相剋の渦に巻き込まれていく。

「”国宝トーク”をしている間だけは現実を忘れられる…」アラフィフ女子が映画『国宝』に熱狂する本当の理由(画像2)

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

なんと主演の吉沢亮、さらに横浜流星、渡辺謙、3人そろってNHK大河ドラマの主演経験者、という超豪華キャスティング。

加えて文句なく、吉沢亮演じる女形の喜久雄が、底知れぬほどに美しい。『藤娘』『道成寺』『鷺娘』……歌舞伎を観たことのない人でも知る演目を舞い踊る喜久雄。芳醇な色気をまとった所作や豪奢な衣装に目を奪われるのはもちろん、白塗りがこれほど美しく映える女形の顔に言葉を失う。

しかも、その白塗りが汗でドロドロに崩れてなお美しいのは、田中泯が怪演する当代きっての女形で人間国宝の小野川万菊が「ほんと、きれいなお顔だこと」と認めただけのことはある。そして、万菊が少年時代の喜久雄(黒川想矢)を手招きする妖気が、「国宝とは何ぞや?」を見る者に思い知らせるに十分だ。

舞台という“虚”の世界で繰り広げられる圧倒的な“美”を、まるでシャワーのように全身に浴びる3時間。枯れた心と体に沁みわたる。

「”国宝トーク”をしている間だけは現実を忘れられる…」アラフィフ女子が映画『国宝』に熱狂する本当の理由(画像3)

朝8時15分なのに満席!夕方までチケットがとれない……という悲鳴も聞く。

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