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【佐々木蔵之介さん】ルーマニアで一人芝居「電子レンジを購入するところからはじまりました」57歳での挑戦で学んだこと

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恩田貴子

今年5月、ルーマニアの古都・シビウの国立劇場で一人芝居を上演。現地の人々から喝采を受けた佐々木蔵之介さん。 キャリアを積んだ今もなお、新たな扉を軽やかに開け続ける佐々木さんに、シビウでの日々や、作品に対する思いを伺いました。

プロフィール
佐々木蔵之介さん

ささき・くらのすけ●1968年京都府生まれ。
劇団「惑星ピスタチオ」の旗揚げに参加。退団後上京し、舞台、映画、テレビなど数多くの作品に出演している。
待機作に、映画『盤上の向日葵』(10月31日より全国にて公開)、主演ドラマ「浮浪雲(はぐれぐも)」(2026年放送予定)。
シビウでの日々を収めたフォトブック『光へと向かう道〜『ヨナ』が教えてくれたルーマニア〜』 は、9月14日発売。
佐々木蔵之介ファンサイト「TRANSIT」 https://sasaki-kuranosuke.com

言葉も文化も異なる地で 一人芝居に挑んだ日々

「ゆうゆうさん、創刊25周年おめでとうございます」

今年、『ゆうゆう』は創刊25周年。そのことをインタビューの席に着いた佐々木蔵之介さんに伝えると、ほがらかな笑みとともに、祝いの言葉が返ってきた。くしくも佐々木さんが舞台から映像の世界へと、活動の場を大きく広げたのも25年前。NHK朝の連続テレビ小説「オードリー」への出演がきっかけだった。新たな挑戦の場での日々を、「映像というものを勉強する毎日でした」と振り返る佐々木さんだが、なかでも忘れられない出来事があるという。

「大竹しのぶさんとご一緒した場面で、『今、面白いことが起きているな』と自分を俯瞰しているような感覚を覚えたんです。舞台では、『今、完全に空気が変わった』と体感できる瞬間があるけれど、映像は?と思っていた矢先でした。放送を見た友人から、『あのシーン、すごくよかったよ』と連絡があって。役者が感じた感覚や空気は、映像にもしっかり記録されるんだと、映像に対する信頼が生まれた瞬間でした」

それから25年。舞台と映像の世界、シームレスに活躍を続ける佐々木さんが、今年再び大きな挑戦の舞台に立った。それはルーマニアの巨匠、シルヴィウ・プルカレーテ氏が演出を手がけた一人芝居『ヨナ-Jonah』。約1カ月間、ルーマニアの古都・シビウに滞在して作品をつくり上げ、1カ月半にわたるヨーロッパツアーを成功させたのだ。

「始まりは今から8年前。プルカレーテさんと舞台『リチャード三世』をつくったときに、シビウのラドゥ・スタンカ国立劇場のプロデューサーから『この作品をぜひルーマニアで』とおっしゃっていただいたんです。そのときは実現に至りませんでしたが、数年後、プルカレーテさんと『守銭奴』という作品をつくったときにも話が出て。『それならば、最初からルーマニアで上演することを前提に、作品選びから始めませんか?』ということになったんです」

日本とルーマニア、両国のスタッフが作品を検討する中、ルーマニアの国民的詩人、マリン・ソレスク氏の戯曲『ヨナ』に白羽の矢が立った。稽古はラドゥ・スタンカ国立劇場で行われることになり、佐々木さんは単身シビウへ。その経緯を、「出演者は僕一人。スタッフはルーマニアにいるので、僕が向こうへ行ったほうが安上がりなんです。単純に(笑)」と事もなげに話す。だが、言葉も文化も違う国での挑戦は、決して簡単ではなかったはずだ。

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