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【佐々木蔵之介さん】ルーマニアで一人芝居「電子レンジを購入するところからはじまりました」57歳での挑戦で学んだこと

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恩田貴子

自分一人ではたどり着けない場所へと導かれて

「正直、『えらいことになったな』とは思いました。でも同時に、『やらない手はないぞ』と。大学の演劇サークルからこの世界に入りましたが、まさか自分が海外で公演したり、海外のスタッフと一つの作品をつくったりするなんて、考えもつかなかった。これは、年齢を重ねた今だからこそいただけたチャンスであり、挑戦です。周りからは『大変そう』と言われましたが、僕自身は『この挑戦をめちゃくちゃ楽しもう!』と思っていましたね」

佐々木さんがこれほど前向きに挑戦に飛び込めたのは、プルカレーテ氏をはじめとする、スタッフたちへの信頼も大きい。

「プルカレーテさんはよく、『この戯曲をオペレーション(手術)します』と言うんです。一つの戯曲をばっさばっさと切って、順番を入れ替えたり、一つのブロックを3つに分けたり。どうしてそうするのか、理由は教えてくれません。だから僕たち役者は意図を自分で探り、体現しなければならないんですが、それがすごく面白くて楽しいんです」

日本の現場であれば、本番の10日ほど前に一度通し稽古を行い、全体の流れをつかむのが一般的だ。しかし、プルカレーテ組にはその通例さえも存在しない。

「彼は『何でそんなことしなきゃいけないんだ』って言うんです(笑)。『今この時点で固めて、何の意味があるんだ』と。プルカレーテさんは作品がどこまで面白く広がるのか、ギリギリまで探り続けたい人。そんな彼とともに考え、稽古していくと、自分一人ではたどり着けない場所へと導いてくれる。それに今までの経験上、彼が手がけたものは想像をはるかに超えて面白くなることを僕は知っています。だから今回も彼を全面的に信じ、安心して飛び込もうと思いました」

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