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【あんぱん】クライマックス直前!ヤムおじさん(阿部サダヲ)との再会に、嵩(北村匠海)が不在だった演出がまた嵩らしい

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田幸和歌子

【あんぱん】クライマックス直前!ヤムおじさん(阿部サダヲ)との再会に、嵩(北村匠海)が不在だった演出がまた嵩らしい

「あんぱん」112回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

変わらぬ〝はちきんののぶ〟のままで

9月に突入し放送期間も残り1カ月を切り、いよいよクライマックスに向かうNHK連続テレビ小説『あんぱん』。第23週「ぼくらは無力だけど」が放送された。

前週のラストで描かれた、嵩(北村匠海)が脚本を手がけたラジオドラマ『やさしいライオン』の放送。そのラジオ放送を聞いている顔ぶれの中に「ヤムおんちゃん」こと屋村(阿部サダヲ)の姿があったことに思わず笑みがこぼれた。

ヤムおんちゃんは、今さら何の説明の必要もないとは思うが、『アンパンマン』シリーズでおなじみのキャラクター、ジャムおじさんの要素をもつ登場人物である。戦争を忌避する屋村は、軍関係にパンを作らざるを得ない事情に葛藤しながらも、レシピを残し朝田家から姿を消したままだった。

屋村は表面上は適当そうな軽いキャラクターを装いつつ、奥底に抱えるトラウマや信念は強い人物として描かれているが、ことあるごとに嵩やヒロインのぶ(今田美桜)の転機にはちゃかすようなふうをして関わり続けてきた。戦後となり、以前と変わらぬ軽妙さで関わってくるのかと思ったりもしたが、断片的に存在が匂わされるぐらいで、なかなか再登場はしなかった。

【あんぱん】クライマックス直前!ヤムおじさん(阿部サダヲ)との再会に、嵩(北村匠海)が不在だった演出がまた嵩らしい(画像2)

「あんぱん」第113回より(C)NHK

「嵩は、いごっそうになれ!」

さて、ラジオドラマも好評を得たはずの嵩だが、相変わらず一番の目標である漫画家としての成功を掴んだとは言えない状況が続く。気鋭の漫画家たちの世界旅行にも声をかけられず「ぼくはみんなから軽くみられてるんだよ」と、もやもやとした日々を送る。そんな嵩を元気付け、前を向かせるのが当たり前かもしれないが、妻ののぶという存在だ。

自問自答を続ける嵩を「行くで!」と、なかば強引に外に連れ出し、「走るで!」と、階段を駆け上がる。そして、階段の上から振り返りこう言った。
「嵩、たっすいがぁはいかん!」
何度となく嵩を叱咤激励してきた言葉だ。

「夢が見つかったら思い切り走ったらいい。のぶは脚が速いき、いつでも間に合う」と、のぶは父の結太郎(加瀬亮)に言われた言葉を思い出しながら、あらためて嵩に言った。
「嵩は足が遅いき、いごっそうになれ!」

いごっそうとは「頑固で大胆不敵に己を貫くって意味や」(のぶ)という土佐言葉だ。嵩は微笑みをうかべながらこう言った。
「いごっそうになって、もう少し頑張ってみる」

この階段での掛け合いののぶは、今も変わらぬ〝はちきんののぶ〟のまま。そして、土佐言葉を使いながら、過去の印象に残る場面を折り込みながらの夫婦の関係を描いていく。そこに重なる劇伴が、作詞家としての嵩の代表作である『手のひらを太陽に』というところも含め、これまで届けられてきた5カ月があるからこそ描かれる集大成的な名シーンであったと思う。

【あんぱん】クライマックス直前!ヤムおじさん(阿部サダヲ)との再会に、嵩(北村匠海)が不在だった演出がまた嵩らしい(画像3)

「あんぱん」第113回より(C)NHK

余談ではあるが、高知という土地を下敷きにして、はちきんの女性が気弱な男性に大きな影響を与えていくというのは、どこか坂本龍馬の物語のエッセンスも感じられるようだ。泣き虫だった幼いころの龍馬を守った頼もしい龍馬の姉・乙女、龍馬が剣術を学んだ千葉道場の娘で「千葉の鬼小町」とも呼ばれた千葉さな子ら、龍馬とその周辺の女性たちの描かれ方を彷彿することもある。

そんなのぶの激励を受け、嵩は自信なさげではありつつも、のぶに勧められた懸賞漫画への挑戦を決意する。代表作はないと言いつつも、テレビ番組『まんが教室』の先生である。出すからには選ばれないとみっともないという自意識と戦いつつ、嵩は納得のいく作品づくりに苦悩する。

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