原動力は「怒り」。平和を願い、演劇の未来を見つめる、その思いとは?【渡辺えりさんのターニングポイント#1】
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恩田貴子
人生には時として、その後の生き方を決定づけるような「ターニングポイント」が訪れる。女優、劇作家、演出家として常に全力で走り続ける渡辺えりさんにとって、それはある特定の出来事ではなく、今も彼女を内側から突き動かす、熱い「思い」そのものだった。
プロフィール
渡辺えりさん
わたなべ・えり●1955年山形県生まれ。
78年、劇団「3○○(さんじゅうまる)」を旗揚げし、作・演出・出演の三役をこなす。劇団解散後は、「オフィス3○○」主宰として、さまざまな役者やクリエイターとともにプロデュース公演を行っている。
今年12月には、古稀記念コンサート「70祭 ERI WATANABE CONCERT~ここまでやるの、なんでだろう?~」(12月20、21日/東京芸術劇場プレイハウス)を開催予定。
「オフィス3○○」公式サイト https://office300.co.jp/
多様な演劇が、未来を拓く偏らない視点を育む
演劇界もまた、時代の流れとともに少しずつ姿を変えている。若い世代に人気のエンターテインメント性の高い舞台が注目を集める一方で、観客の年齢層は緩やかに上がってきている。そんな今の状況を、渡辺さんはどう見ているのだろう。
「演劇が好きな方も、年を重ねるとだんだん劇場から足が遠のいてしまうんですよね。そうなると、お客さんの中心は若い人達になっていきます。若い世代に人気のある2.5次元の舞台なども、もちろんおもしろい。ただ、お客さんが入るからといって、1つのジャンルだけに偏るのではなく、さまざまなジャンルのお芝居が上演されるような未来になるといいなと、私は思っているんです」
なぜ、多様な演劇が必要なのか。それは、物語が人の心に静かに染み入り、考え方や行動に影響を及ぼす力を持つからに他ならない。
「シュールなもの、リアルなもの、いろんな形のお芝居があっていい。でないと、どうしても考え方や見方が偏ってしまいますから。同じものを見ていたら、みんなが同じ方向を向き、大きな流れに飲まれてしまうこともある。それは時に、戦争や暴力的な衝突につながる、とても危ういことだと思うんです。だからこそ、『いや、違う見方もあるんだよ』と別の視点を提供できるお芝居は、絶対に続けていかなければいけない。未来のために、それはとても大事なことだと思っています」
人生の軸となった「戦争を止めたい」という思い
渡辺さんを突き動かす原動力。それこそが、彼女の人生における最大のターニングポイントであり、今もなお活動の羅針盤となっている「怒り」の感情だ。戦時中、戦闘機の製造に従事していた父、シベリアに抑留され、戦後10年経ってやっと帰国が叶った伯父。2人から戦争の話を聞いたことをきっかけに、反戦への思いが芽生えたという。
「なぜ戦争が起きるのか。始めるのはいつだってお金持ちで、命を落とすのは貧しい人たち。そして、戦争で儲けた人たちがまた次の戦争を始めるんです。何度も、何度も。そのことに、みんなもっと目を向けてほしい。戦争のときだけ、人を殺すことが『善』になるなんて、そんな価値観ありますか? それは『悪』なんだと、言い続けなければならないんです。誰かが誰かの犠牲になる社会ではなく、平和で平等な世の中にするために、言葉で、お芝居で、思いを伝え続けなければ」
