ツンデレきわまりない屋村(阿部サダヲ)も、照れ隠しの八木(妻夫木聡)も「もっと遠くに飛べるはず」と信じている【あんぱん】
公開日
更新日
田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
読者層をもっと広げておかないと
国民的作品『アンパンマン』原作者やなせたかしの妻・小松暢をヒロインとして描くNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第25週「怪傑アンパンマン」が放送された。
のぶ(今田美桜)が、きっと伝わるはずだとずっと信じ続けた〝太ったおんちゃん〟の「アンパンマン」は、我々のよく知るアンパンマンへと姿や設定を変え、ついに独立した一冊の絵本として世の中に送り出された。その魅力は、決して爆発的に!というわけではないが、のぶの読み聞かせ会などの後押しも手伝ったりしながらも、じわじわとだが広がりをみせてきた。
嵩(北村匠海)とのぶを、陰日向となりながら見守り、気持ちの面でも支えになったり相談にのったり、ときには仕事を依頼してきた八木(妻夫木聡)は、ついには自身が興した会社『キューリオ(旧九州コットンセンター)』が出版する雑誌『詩とメルヘン』の編集長に嵩を抜擢するなどしてきた。
しかし、『アンパンマン』は、今の活躍からは想像できない程度にしか評価されていなかった。その一方で、『詩とメルヘン』の好調により新たに創刊された雑誌『いちごえほん』の編集長も嵩が請け負うこととなり、八木の提案により、同誌でアンパンマンの連載を持ちかけられる。
「読者層をもっと広げておかないとキャラクターは生き残れない」
世界的キャラクターブランドの「サンリオ」創業者・辻信太郎氏をモデルとする八木らしい一言で、それを聞いた蘭子(河合優実)に、「商業主義の経営者らしいご意見ですね」と指摘される。しかしそれを受けて、「夢を育てるためには戦略も必要だ」と返すあたりは、単に嵩とのぶへの思い入れが強いわけではなく、嵩の才能、そして「アンパンマン」の真の魅力を信じているからこその言葉である。
知ってる人しか知らないアンパンマンですが
こうして始まった連載『怪傑アンパンマン』だが、さほど話題を集めることなく連載は終了してしまう。少年時代から変わらず、やはり少し落ち込む嵩だが、そこに、小劇場付きのビルを建てたという、たくや(大森元貴)が訪れ、『怪傑アンパンマン』のミュージカル化を持ちかける。このミュージカル化に向けていろいろと動き出すが、多忙な嵩はなかなか打ち合わせなどにも顔を出すことができない。そんな嵩に代わって、のぶが作品のコンセプトを説明し、そしてこう言った。
「知ってる人しか知らないアンパンマンですが、皆さんのお力を貸してください。今はよろよろ飛んでいますが、アンパンマンはもっと遠くへ飛べるはずです! よろしくお願いします!」
『あんぱん』は、作家・やなせたかしの功績や人生を描くとともに、その夫婦の(それは幼いころからも)信じ合う姿、愛というものが根底に流れ続けてきた。「たっすいが」であった柳井嵩の人格と才能を誰よりも信じる存在であることは、このドラマの大切な局面で必ず印象深く届けられてきた。八木やたくやばかりでなく、周囲の多くの人物が嵩に強く関わり続けるのも、それぞれに、嵩がアンパンマンとともに「もっと遠くへ飛べるはず」という思いがあるからにちがいない。それが感じられるキャラクターの描き方は、脚本と演出の巧さなのであろう。
