【あんぱん】アンパンマン誕生秘話。一言のセリフもなく目の力と背中で表現する北村匠海の演技が見事だ!
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録
NHK連続テレビ小説『あんぱん』第24週のサブタイトルは『あんぱんまん誕生』。ほとんどの視聴者が織り込み済みで見ていることと思うが、このドラマは国民的作品『アンパンマン』の原作者・やなせたかしとその妻・小松暢をモデルとしたものである。
いつアンパンマンが登場するのか気になり続けてきた視聴者も少なくないだろう。その原型ともいうべき、おなかをすかせた人にパンを届けてあげる〝太ったおんちゃん(アンパンマン)〟はすでに登場しているが、持ち込み先の出版社などには認められず、「アンパンマン」はいまだ命を吹き込まれていない状態だ。
手嶌治虫(眞栄田郷敦)からの依頼を受け嵩(北村匠海)がキャラクターデザイン、美術監督をつとめた映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録した。
「あなたのキャラクターを生み出す能力は、これまで見たどの漫画家たちよりも秀でている」と、手嶌は嵩の才能を絶賛する。これは、テレビアニメとなった『それいけ!アンパンマン』に登場したキャラクターが2009年3月の時点で1768体を記録しギネス認定されたやなせたかしがなし得た偉業を予言するかのようでもあった。
映画のヒットという流れにのって、嵩の担当編集者(平井珠生)もなんでも好きに書いてくれと依頼する。この風にのって、
「あれをお願いしてみたら?」
と、のぶ(今田美桜)はすかさず持ちかける。
あれとはもちろん〝太ったおんちゃん〟のことだ。作品に目を通した編集者も「できれば少し減量できませんか?」とおそるおそる本音を口にするが、
「できません! 個性ですから」
と、のぶは自信たっぷり、きっぱりと断る。
のぶのプッシュもあってか、『アンパンマン』はついに雑誌に掲載された。しかし、この〝太ったおんちゃん〟のヒーローは、のぶ以外にはなかなか理解されず、家族たちにすらもうちょっとかっこいいものにできなかったのかと言われてしまう始末だ。
「かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」
幼いころに「はちきん」と呼ばれた活発な女性だったのぶは、悪いやつをこらしめるのが正しいと思っていたという。しかし、それは相手に恨みを残すだけで、本当の正義ではないのかもしれないということを、〝太ったおんちゃん〟に気付かされたのだと。
本作で序盤からずっと掲げられてきたテーマは「逆転しない正義」というものだ。正義とは、その視点や立場によって真逆のものになりうるものだということをさまざまな局面で実感してきた。のぶがアンパンマンに抱く気持ちはまさにそれである。
しかし、雑誌に掲載された「アンパンマン」は、結果として大きな人気を獲得することができなかった。どうして人気が出ないのかと八木(妻夫木聡)らも考えるが、
「うまくいえないんですけど、かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」
と、嵩は相変わらず気弱な雰囲気を漂わせながらも強く主張する。嵩の思い、逆転しない正義は伝わるのだろうか。
