ツンデレきわまりない屋村(阿部サダヲ)も、照れ隠しの八木(妻夫木聡)も「もっと遠くに飛べるはず」と信じている【あんぱん】
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田幸和歌子
「あんぱん焼いてください、だろ?」
ミュージカルのテーマ曲にある、<ぼくのいのちがおわるときちがういのちがまた生きる>という歌詞。もちろんアンパンマンという作品のコンセプトそのものであるが、その後のアニメ『それいけ!アンパンマン』の一連の楽曲や、やなせたかし(嵩)の出世作である『手のひらを太陽に』の歌詞にも通ずる、〝いのち〟そして〝生きる〟ということが盛り込まれたものだ。
ここでもやはり嵩に代わり、のぶがこのミュージカルを、「戦争で心に傷を負った人、戦争で大切な人を失った人たちが、それでも人生捨てたものじゃないって思えるような」ものにしてほしいと伝える。やなせたかしが生涯を通じて訴えかけた反戦と平和への思い。それはこのドラマでも当初からずっと訴え続けられてきたものだ。残り2週というところで、それをあらためて気づかせ思い出させてくれる言葉である。
しかし、絵本の評判と同じように、ミュージカルのチケットの出足はかんばしくない。そんなか、のぶとメイコ(原菜乃華)は屋村(阿部サダヲ)のもとを訪れ、あるお願いをする。
「どうせアレだろ?『嵩さんのためにあんぱん焼いてください』だろ?」
と、昔と変わらぬ憎めないがひねくれた口調で屋村は言い、のぶたちの願いを断ってしまう。
浜野謙太演じるアンパンマン
ミュージカル初日。やはり客席には空席が目立つ。しかし、そんななか、のぶが読み聞かせをしてきた子供たちや、お茶の教室の生徒である星子(古川琴音)らが続々かけつけ、気付けば会場は盛況だ。
「さあ、子どもたちよ、たべてくれ。おなかいっぱいたべなさい!」
浜野謙太演じるアンパンマンがこう呼びかけ、たくやの曲が会場をひとつにするようにミュージカルは終幕する。そこに現れたのは、のぶとメイコの願いを断ったはずの屋村だ。屋村はアンパンマンの顔のかたちをしたあんぱんを大量に持ってきて、会場の子供たちに配り、子供たちも大喜びだ。ツンデレきわまりないというところだが、屋村に発注したのが実は八木だった。
「やないたかしのアンパンマンが持つやさしさは、うちの会社理念とも合ってるだろう。化ける前の先行投資だよ」
やはり蘭子が皮肉ぽく指摘したように商売人らしい言い回しであるが、それもまた、きっと八木なりの姿勢、照れ隠しのようなものもあるのだろうと、その表情などから見てとれる。
終演後、感極まって嵩は屋村に抱きつき、「ありがとうございます。生きててくれて」と言った。そして、たっすいがでありながら、芯の強さは変わることのなかった嵩らしい思いが屋村に向けて届けられた。
「おなかをすかせた人に、あんぱんを届ける。敵も味方も関係ない。どっちが正義かも、どっちが悪かも関係なく、ただパンを届ける。これがぼくの思うヒーローなんです」
「逆転しない正義」の思いを詰め込んだヒーロー、アンパンマンはここからさらに遠くまで飛んでいく。次週、いよいよ最終週。その飛んでいく先がどうなるか、楽しみを抱きながら見届けたい。
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