海外留学や出産を経て突然の社長就任。「山本山」の現状を把握して、何が課題かを洗い出すところからはじめました【山本山社長・山本奈未さんのターニングポイント#3】
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ゆうゆう編集部
「山本山」の社長で山本家の十一代当主でもある山本奈未さん。30代前半に「跡継ぎをもうける」という役目を果たし、その後アメリカから帰国しますが、本人も驚く「社長就任」という出来事が待っていました。これまでのターニングポイントの集大成ともいえそうな社長就任時の経緯と、今後の夢を語っていただきました。
父からの要請で突然決まった社長就任
――2023年にお父さまである十代当主・山本嘉兵衛氏より「山本山」の代表取締役社長を引き継がれました。このときの経緯を教えていただけますか?
山本家では、当主の考えや決断を尊重する風土があります。社長の引き継ぎに関しても、父・嘉兵衛が会社の状況や将来を考え、タイミングを見計らって進められました。ちょうど私自身も、子どもの教育等の事情で当時住んでいたアメリカから日本へ帰国することを決めておりました。父はそのタイミングに合わせて「帰国と同時に社長に就任するように」と要請してくれたのです。
それは父なりの配慮があってのことと受け止め、その意向を受け入れる形で社長就任が決まりました。
――社長に就任されていちばん最初に取り組んだのはどんなことでしたか?
「山本山」の現状を把握して、何が課題かを洗い出すところからですね。初めて顔を合わせる社員も多かったので、あいさつや自己紹介を兼ねて、社員ひとりひとりにヒアリングもさせてもらいました。課題として感じたのは、社員にがんばりたいという気持ちがあっても、どうしていいのかわからないという悩みや迷いがあることでした。その解決のために会社が方向性をしっかり示していく必要があることがわかって、それは大きな発見でしたね。「山本山の存在価値とは何なのか」「山本山はどんな価値提供をしていくべきか」をきちんと言語化・可視化していくという方針が生まれました。
海苔だけでなく「山本山のお茶」をもっと知ってもらいたい
――今後、山本社長が取り組んでいきたいのはどんなことですか?
「山本山」は海苔でみなさんに知っていただいているかと思うのですが、1690年に煎茶商として始まった会社です。にもかかわらず、当社のお茶があまり知られていないのが少し悲しいんですよね。これまでどおり質のいい海苔を提供し続けながら、「海苔だけでなくお茶もやっていますよ」とアピールして、みなさんに当社とお茶をつなげて考えていただけたらと思っています。
――1835年に六代目が玉露茶を発明したということで、「山本山」は玉露の発祥の会社でもあるんですね。
はい。ただ、玉露という言葉を聞くことがあっても飲む機会は少なくて、現代では敷居の高いものになっていますよね。玉露をもう少しカジュアルダウンして日常に取り込むことができたらとも思っています。リラックスできたり、健康によかったりと、お茶にはたくさんベネフィット(恩恵)があるので、そのことも多くのかたに知っていただきたいですね。
――創業の地である東京・日本橋の「山本山 ふじヱ茶房」のメニューにも、「山本山の玉露を知ってもらいたい」という思いが反映されているようですね。
「山本山 ふじヱ茶房」では、厳選したお茶と、海苔をふんだんに使ったお食事を提供していまして、「玉露しふく」という“玉露茶のコース”を始めました。「しふく」というのは、「至福」と「四服(四杯)」をかけています。抽出温度の違いによって「甘み」「旨み」「滋味」「香り」を際立たせた4杯の玉露茶を和菓子とともに楽しんでいただけるメニューです。
文化を継承していく存在として次世代につなぐことが役目
――「山本山 ふじヱ茶房」に併設されているショップも素敵ですね。ひとつに絞るのはむずかしいかもしれませんが、おすすめの商品を教えていただけますか?
お茶はやはり当社の玉露を試していただきたいので、少しお値段はしますが「上喜撰(じょうきせん)」(100g 5,400円)がおすすめです。「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四杯で夜も寝られず」という黒船来航のときに詠まれた狂歌でも知られる、「蒸気船」にかけられた高級茶の代名詞から名前をとった商品です。
――海苔にもおすすめ商品はありますか?
ロングセラー商品で手土産にぴったりの「のりせんべい」(10枚入り 1,296円~)ですね。今、とても推しています。海苔屋としてどういう海苔せんべいをつくったら海苔を食べていただけるか、というところからの開発だったと聞いています。海苔を主役にするためにせんべいを極限まで薄くして、海苔でせんべいが見えないくらいに包んでいます。当社の海苔の風味を楽しんでいただける商品です。
――山本社長のターニングポイントをうかがいながら、「山本山」とお茶とのかかわりや現代にマッチした新しい試みを知ることができました。十二代目となるお子さんの時代には、また今の私たちからは想像のつかないような新商品が生まれたりするのでしょうね。
そうだといいんですけど(笑)。じつは「山本山」は海外での業績が伸びていまして、日本より規模が大きくなっています。当社と日本の文化が密接に関わっていることを海外のかたにお話すると、すごく納得して共感していただけるんですね。会社としてただ利益を追求するのではなく、文化を継承していく存在ということを大切に、次世代につないでいきたいと思っています。
山本山社長・山本奈未さんのターニングポイント③
「海外生活や出産を経て、突然父から言い渡された社長就任。日本文化の一端を担う会社として、玉露をはじめとするお茶をもっと広めていきたい」
プロフィール
山本奈未さん
やまもとなみ●1690年(元禄三年)に煎茶商として創業した「山本山」の代表取締役社長にして山本家十一代当主。2009年にThe College of Idahoを卒業し、同年に「山本山」に入社。海外事業部部長やYAMAMOTOYAMA U.S.A社長などを歴任し、2023年に代表取締役社長に就任。同年、ハーバード大学経営大学院 OPM 修了。上質なお茶と海苔の販売のほか、お茶と海苔を使ったさまざまな食品を展開している。プライベートでは、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てている。
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DATA
山本山 ふじヱ茶房
住所:東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋髙島屋三井ビルディング1階
※詳細は公式サイトをご確認ください。
お茶・海苔・ギフトは日本橋の老舗 山本山オンラインショップ
撮影/土屋哲朗 構成・文/志賀朝子
