シャワーやガーデニングで呼吸器疾患に!?「肺NTM症」の予防法を医師が徹底解説
慶應義塾大学病院の南宮 湖先生は、肺NTM症の専門医として患者さんを診察するだけでなく、研究活動にも取り組んでいます。第3回では、予防や早期発見のポイント、そして患者さんが日常生活で気をつけることや、前向きに病気と付き合う心構えについて、南宮先生に詳しく伺いました。
予防は難しい。大切なのは早期発見
——肺NTM症の予防法はあるのでしょうか。
残念ながら、予防法はまだ確立されておらず、ワクチンもありません。基礎疾患がない人が発症することが多く、「どうして私が?」と患者さんによく驚かれます。そうしたことから私は患者さんの血液から遺伝子情報を調べて、肺NTM症を発症しやすい遺伝子を突き止めて、予防法の確立につなげるための研究を行っています。
——感染経路について教えてください。
原因となるNTMは私たちの生活環境によくいる常在菌で、主に「水」や「土・ほこり」の中にいます。特にシャワーヘッドやお風呂のぬめり、給湯口などにいて、それがミスト(霧状)になって吸い込むことで、気管や肺に定着してしまうと考えられています。また、庭や鉢植えなどの菌を含んだ土が舞い上がり、吸い込むのも一因だといわれています。
ただ、どういった場所にどれぐらいいるのか、お風呂場などをどれぐらいきれいにしたら感染予防ができるかは、まだ完全にはわかっていません。
——予防が難しいとなると、早期発見が重要ですね。
その通りです。せきが3週間続く場合は、内科や呼吸器内科などを受診してください。あわせて、健康診断も毎年受けておきましょう。レントゲンでは発見しづらいこともあるので、CT検査も選択肢になります。せきが続く、血痰が出るなど、異常を感じたら早めに病院に行っていただきたいと思います。
感染したら神経質になりすぎず、できる範囲で工夫を
——肺NTM症と診断された患者さんは、日常生活で何に気をつければよいでしょうか。
シャワーヘッドを分解して歯ブラシで洗っているという患者さんもいらっしゃいますが、私は「神経質になりすぎずに、できる範囲で工夫していきましょう」とお伝えしています。一緒に暮らす家族がいる場合は、お風呂など水回りの掃除は別の家族に担当してもらうなど、疲れない程度に無理なく過ごすことが大事です。
——ガーデニングが好きな患者さんは、控える必要はありますか。
ガーデニングが趣味の方には、「風が強い日はちょっと控えたほうがいいかもしれません」とお伝えします。ただ、肺NTM症だからといって大好きな趣味や旅行をやめてしまうのは、私はおすすめしません。ぜひ日々の生活の楽しみを大切にしていただきたいと思います。
——人から人にはうつらないということですが、家族と接する上で気をつけることは。
よく患者さんに「孫が生まれたけれど、会いに行っても大丈夫ですか」などと聞かれますが、赤ちゃんに生まれつきの免疫異常などがない限りはまったく問題ありません。そうした行動制限よりも、むしろ食事をしっかり摂り、運動して筋肉を落とさないようにする生活習慣のほうが大事です。
早期受診が大切。前向きに病気と付き合っていこう
——最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
肺NTM症は認知度の低い病気ですが、年々患者数が増え続けています。長引くせきなど、気になる症状があれば早めの受診を心がけてください。
まだまだわかっていないことが多い病気ですが、新薬も出てきており、さらなる治療効果が期待されています。もし発症しても神経質になりすぎず、日常生活を楽しく過ごしたり、おいしいものを食べて体重を増やすなど、プラスの面に目を向けながら乗り切っていきましょう。
この記事のポイント
・明確な予防法はまだ確立されていない。早期発見が重要
・菌は水や土に存在。水回りの掃除など、できる範囲で工夫を
・神経質になりすぎず、趣味や旅行をやめる必要はない
・人から人にはうつらない。家族や赤ちゃんとの接触も問題なし
プロフィール
南宮 湖先生
慶應義塾大学医学部 感染症学教室 教授
なむぐん・ほう●慶應義塾大学病院予防医療センター助教、永寿総合病院呼吸器内科、米国国立衛生研究所アレルギー・感染症研究所博士研究員などを経て、2025年4月より現職。肺NTM症の宿主因子を探索するための国際共同研究グループを主宰。同じ感染症にかかっても重症化する人・しない人がいることに関心を持ち、国内外の研究者と共に研究を進めている。
撮影/柴田和宣(主婦の友社) 構成・文/武田純子
