山中漆器がV字回復した秘密! 老舗4代目が挑んだデザインブランド戦略
「縦木取り」という伝統的な木取り方法が「強み」
――それらの特長はどこに由来しているのですか?
山中漆器は古来より茶道具の棗(なつめ)やお吸い物の椀などのように薄く、変形が少なく、精度の高い木地を要求されてきました。
そのような木地を作るために採用された木取方法が「縦木取り」になります。木材の細胞壁は縦方向に配列されていて、縦方向の強度を実現しています。
木材は正しい方向で加工すれば、紙のように薄くできたり、箸のように細いものも作れます。
――「縦木取り」の丈夫な素材に、ろくろの高い技術を施すことで精度の高い木地ができるのですね。
これまで産地が作ってきたもの、木材の性質などを理解した上で、アイテムの切り口やデザインに落とし込まなければ、職人の技術を活かすことができません。
――そうした伝統の技に今の時代のデザインを加えたわけですね?
本質は変えずに見た目を新しくする、つまり「リデザイン」です。
突飛なアイデア商品で無謀な勝負をするのではなく、作り慣れたもので勝負する方向に転換したのです。
――ショール―ムには、そうしたモダンなデザインのさまざまな漆器が並んでいます。
KARMI以降も次々とデザイン性の高い作品を開発し、販路を開拓し続けています。
――ステムがすらりと長く、極限まで薄く挽かれたスタイリッシュなシャンパングラスなども、あまりの美しさに目が釘付けになります。本来、ガラスや陶器で作られているものを漆器でつくることにも挑戦されているのですね。
木の持つあたたかみ、優しい口当たりで、一度使うと忘れられない器です。今回、抹茶茶椀などの茶道具一式も漆器で作りました。
――今、話題の「chabako」ですね! 抹茶ブームと相まって、海外でもたいへんな人気だとか。そのあたりのお話は次回以降、また詳しくお聞かせください。
プロフィール
我戸 正幸 さん
がと まさゆき●1975年、石川県山中温泉生まれ。高校卒業後、県内の専門学校を経て上京し、漆器問屋に勤務して流通・販売を学ぶ。2004年、28歳で家業の(株)我戸幹男商店に入社。デザイナーを起用し、500点を超える商品を開発。2010年グッドデザイン賞中小企業長官賞、2022年A’DESIGN AWARD BRONZEなど国内外のデザイン賞を受賞。山中漆器の価値を高める取り組みを続けている。
SHOP DATA
GATOMIKIO/1
古民家をリノベーションした、2017年オープンの我戸幹男商店直営ショップ。
石川県加賀市山中温泉こおろぎ町二3-7
https://www.gatomikio-1.com/
取材・文/依田邦代 撮影/編集部
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