【ジェーン・スーさん】できないことが増えていく87歳の父と、あえて同居はしない。その理由とは?
離れてひとり暮らしをする87歳の父親の生活を、別居しつつサポートするジェーン・スーさん。あえて同居を選ばない家族の距離感とは? 父親を支える秘訣とは? そしておひとりさまとしてのご自身の自立についても伺いました。
Profile
ジェーン・スーさん コラムニスト、ラジオパーソナリティ
じぇーん・すー●1973年東京生まれ。
TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のMCを務める。
著書に『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫)、『へこたれてなんかいられない』(中央公論新社)など。
5年前、介護はまだ先。でも生活が立ち行かない
ジェーン・スーさんの父親は、片道1時間の距離にひとりで暮らしている。スーさんが父の生活に不安を覚えたのは5年前のことだった。
「お世話をしてくれるガールフレンドたちもいて、私は月に一度、母の墓参りで顔を合わせたり、住居費を援助したりですんでいたのですが、彼女たちも高齢になり、お世話が難しくなったようです」
少しずつ痩せ始め、歩行も遅くなっているので、ひとまず今の暮らしを見てみようと父の家に向かうと、そこは汚部屋一歩手前。82歳、家事能力のない父ひとりでは生活が立ち行かないことがわかった。
「でも父はまだまだ元気で介護保険サービスの利用はできません。本格的な介護の前に、家族が支援しなければならない“介護未満”が訪れました」
こんなとき、多くの人の頭には「同居」の文字が浮かぶのではないだろうか。同居して、できるだけのことをするのが親孝行ではないかと。しかしスーさんはその道を選ばなかった。
「母が亡くなる前、両親が同時期に倒れたことがあったんです。その頃私は会社勤めをしていたので、介護休職しました。でも母は、『私のために仕事だけはやめないで』と言っていました。この言葉が遺言のように感じられ、また、家族だけで回していくのは無理だという実感もありました。冷静に考えても、この先、本格的な介護が始まり、さらにその先に自分が老いていくときに、絶対にお金が必要です。ならば今の自分の生活を変えてはいけないと思いました」
