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【尾上右近さん】もはや”依存”と語る歌舞伎の魔力。新たに『八雲立つ』でつかんだ境地

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恩田貴子

不安に襲われたときは抗わず、受け入れる。それでいいんじゃないかな

これほどまでに深く愛する歌舞伎だからこそ、ときに不安に襲われることもある。

「いくら歌舞伎を愛していても、体を壊して役に立てなくなったら、その愛の果たしどころがなくなってしまう。そうなることへの恐怖や、お客さまがついてきてくれるだろうかという不安は、常につきまといます。でも、これは克服できるものではないんですよね。強気になれるときはとことん強気で突っ走り、不安に襲われたら抗わずに受け入れる。それでいいのかなと思っています」

芸の道で張り詰めた心を解きほぐすのは、日常の中にあるささやかな時間だ。

「海や川、とにかく水を見るのが好きですね。あとは喫茶店に行くことも。最近は早起きも始めました。以前は早起きが大の苦手だったんですが、やってみたらすごく気持ちがよくて。早起きして、氏神様にお参りをして、川沿いを走るのが朝のルーティン。早い時間に喫茶店に行き、ぼーっとしたり本を読んだりする時間も気に入っています。行きつけのお店? それは内緒です(笑)」

『鏡獅子』という大きな節目を越えたことで、新たな視点も生まれた。

「『長く続けていく』ということを考えるようになりました。僕はどうにも危機管理能力が低くて、これまではスケジュール的に無理をすることも多かったんです。でも、今無理をしたら数十年後に舞台に立てなくなるかもしれない。そう考えたら、無理をしない選択ができるように。『鏡獅子』は、間違いなく僕のターニングポイントになった演目です」

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衣装、その他/スタイリスト私物

3年の時を経てたどりついた“包み込みたい”という思い

この年末、右近さんは3年ぶりに再演される詩楽劇『八雲立つ』の舞台に立つ。演じるのは、荒ぶる神、スサノオだ。

「『八雲立つ』は、宝塚歌劇や2.5次元ミュージカル、クラシック音楽など、各ジャンルのプロフェッショナルが集う作品。2022年の初演時は、そんなカンパニーを『かき混ぜたい』という思いが強かったんです。でもあれから3年たち、経験を重ねた今、今回はみんなを『包み込む』ような存在でありたいと思っています。演じるうえでは、より力を抜きたい。力まないほうが、圧倒的に威力は増すと思うので。その力の表現の違いを、今回はお見せできるんじゃないでしょうか」

芝居、歌、踊りと、見どころも多彩な本作だが、右近さんのイチオシは舞台上で歌舞伎の化粧(隈取/くまどり)を施す場面だという。

「僕らにとっては当たり前のことですが、普段見ていただく機会はなかなかありません。ライブだからこその躍動感や勢いを楽しんでいただけたらと思っています」

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