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ダウン症の書家の母・金澤泰子さんが語る「目には見えない大いなる仕組み」。絶望の淵にいた5年間、あのころは幸せが見えなかった

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ゆうゆう編集部

世界各地で個展や公演を開催する、ダウン症の書家 金澤翔子さんが表現する書。翔子さんを世界の舞台で活躍する書家へと導いた、母であり書の師匠である、金澤泰子さんの文。母と子が奏でる、筆とペンの力をじっくりとお楽しみください。

この世の仕組み

二十年間で1500件に及ぶ超過密な地方での仕事を、失敗なく終えてきた。その間に、奇跡としか思えない事が何度も起きて救われた。そんな日々の中で私は、「目には見えない大いなる仕組み」が見えてきた。きっと誰もが仕組まれてはいるけれど、不幸の闇の中ではそれが見えない。

苦しい時は苦しむしか手立てはなく、私も翔子誕生からの5年間で一生分の涙を流したろう。あの時は、いずれ用意されているだろう幸せが見えなかった。何度か闇に陥り、立ち上がりしているうちに、「この世のことは全て仕組まれている」と思うようになった。

コロナ禍以降、翔子と二人毎日散歩をして自然と深く触れ合った。私はその自然の中にも神の仕組みを見た。小さな名も知らない可憐な花々も、よく観るとその精密で幾何学的な咲き方に感銘を受けた。それはもう神業でしかない。どんな芸術家や名匠が集まっても、この地球に咲く花の一つをも創れはしないと思う。

ダウン症として翔子が誕生し、絶望の淵で苦しんでいた時に、「神は儚い朝顔の咲く時間をも、きちっとセッティングしている。ましてや人間には……」と云う文言を見て、深く、何かが納得できた。

そして今は「サムシング・グレート(分子生物学者・村上和雄が唱えた『人知を超えた大いなる存在』)」が、世界を仕組んでいると思っている。その上で私はなお神に問いたい。「なぜ翔子はこんなに絶妙に、素晴らしく仕組まれているのですか?」と。

翔子は不思議な力を持っている。翔子の例のメルヘンチックな幼い魔法ではなく、この世を生きていくのに駆使している尋常ではないほど不思議で、皆と同じではない力。知的障害者の感性に裏打ちされているこの魔法は絶大な力を持ち、その力が発揮される時は天をも動かす。

翔子の晴れ女ぶりはまさに驚異的だ。席上揮毫(きごう・人前で書を披露すること)の時の風雨も、翔子が祈れば止む。この力も私が教えられる範疇にはなく、仕組まれて持つ不思議な力によるものと思える。

席上揮毫の超過密スケジュールでも、遅刻は一度としてなく、失敗もなかった。これは奇跡に等しい。九連チャンの厳しいスケジュールの仕事が終わった時、翔子は「楽しかったね、お母様」と寄り添ってきた。楽しいより大変だったろうに。娘のこんな一言がどれほど私を救ってくれたことか。

風邪さえひかず、元気に1500件を超える旅の仕事をこなした。何かに守られていなければできないことだ。

金澤泰子 ● かなざわ・やすこ
書家。明治大学卒業。書家の柳田泰雲・泰山に師事し、東京・大田区に「久が原書道教室」を開設。ダウン症の書家・金澤翔子を、世界を舞台に活躍する書家へと導いた母として、書の師匠として、メディア出演や本の執筆、講演会などで幅広く活躍。日本福祉大学客員教授。

金澤翔子 ● かなざわ・しょうこ
東京都出身。書家。5歳から母に師事し、書を始める。伊勢神宮など国内の名だたる寺社や有名美術館の他、世界各地でも個展や公演を開催。NHK大河ドラマ「平清盛」の題字や国連本部でのスピーチなど活動は多岐にわたる。文部科学省スペシャルサポート大使、紺綬褒章受章。昨年12月、大田区久が原に念願の喫茶店をオープンした。 今年は書家デビュー20周年の記念の年となる。

文/金澤泰子 書/金澤翔子

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※この記事は「ゆうゆう」2026年4月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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