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朝ドラ【風、薫る】気持ちの部分から一線を越えてしまったりん(見上愛)。その代償とは?

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田幸和歌子

しかし、りんは踏み越えてしまった

山本は、検査の結果、がんであることが判明する。昭和のドラマの世界から、がんは本人に心労をかけさせないようにといった配慮も含め、患者には直接告知せずに治療をすすめていくことが多かった。りんや山本の妻は、山本には胃腸炎ということで接する。これはいわゆる「優しいウソ」である。がん治療におけるインフォームドコンセントが根付くのは、まだまだ当分先の話だ。

山本のがんは、想像以上に広がっていた。それでも手術は一時無事終わり退院するものの、山本の容体が急変、再び帝都医大病院に入院してくる。山本が軽口を叩き続けているのは、本音を包み隠したいからだ。本当はあまりよくないことも気づいている。がんが広がっているんだろうとりんにたずね、りんが否定すると、
「一ノ瀬さんもつけるんだな、ウソ」
こう山本はつぶやいた。人の命とウソというものは、きわめてデリケートなバランスをとりながら成立しているものである。

山本は、最初に入院したときにも口にしていた、妻と牛鍋を食べにいくことを願う。季節外れであるが、花火の時期だからすいていたという「穴場」のような感覚だ。これが二人にとって年に一度の贅沢、夫婦愛を感じるエピソードであり、人情に訴えかけ、思わずほだされてしまうだろうことはよくわかる。

花火の日。
「家に帰りたい」
山本はそう願う。このまま自分が去ってしまえば妻は一生後悔してしまうだろう。そのために、ウソをつかせてほしいと。どこか落語の人情噺のような趣すら漂う妻への愛を目一杯詰め込んだ訴えだが、医療という視点で考えると、それを叶えることは明らかに間違いである。りんはそれもよくわかっている。しかし、りんは踏み越えてしまった。

朝ドラ【風、薫る】気持ちの部分から一線を越えてしまったりん(見上愛)。その代償とは?(画像5)

「風、薫る」第69回より(C)NHK

朝ドラ【風、薫る】気持ちの部分から一線を越えてしまったりん(見上愛)。その代償とは?(画像6)

「風、薫る」第70回より(C)NHK

山本を背負い、病院から連れ出す。これまで学んできた看護の理念を大きく逸脱したものであることは間違いない。とはいえ患者の願いを叶えることも大切だという現代の「看取り」の概念にもつながり、「ウソ」が誰かを救うことにもつながることだってある。今も正しい選択がどうであるか分からないかもしれない医療と命の難しさ、そして愛する人への思いの重さを、「ウソ」という要素から見せてくれた。

看護の正しい道を、気持ちの部分から踏み越えてしまったりんの前にある道がますます険しいものとなる気配が色濃く漂いはじめ、りんと直美の〝バディ〟としての関係性もどうなっていくか、新たな局面を迎えそうである。

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