「こんな木村多江さん見たことない」歌って踊る主演舞台『わたしの書、頁を図る』の魅力とは
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依田邦代
自分だけじゃない、誰もが何かを抱えている
私たちは日頃、思っていることを100パーセント口にすることはない。空気を読み、相手に合わせ、嫌われないように、当たり障りのないことしか言わない。「ここまで言ったら終わる」「これを言ったら嫌われる」というレッドゾーンには、めったに踏み込まない。ときには、思ってもいないお世辞を口にすることすらある。
だから、相手が本心で何を考えているのかを知ることは難しいし、同様に自分が心の奥底で思っていることを、相手が知る由もない。たとえ、そこに怒りや悲しみ、モヤモヤ、不安が渦巻いていたとしても。
しかし、この図書館であり町子の脳内世界である舞台では、登場人物それぞれが自分の思いの丈を吐露し合う。それは自分が普段、言えないことを言語化してくれるような爽快感だ。「そうそう、私もそう思う」「それそれ、それなのよ」と共感が止まらない。本音のぶつかり合いは、深い示唆を与えてくれることもあるし、ときには傷つけ合うこともある。
観終わった後、胸がスーッとすがすがしくなっているのを感じた。言いたいことを吐き出して、よどんでいたモヤモヤが一掃されたようなカタルシス。そして、そのスカッとしたスペースに温かいものがじんわりと満ちてきた。
町子はおとなしそうな外見とは裏腹に、心の中ではロック魂が炸裂していた。ほかの登場人物たちもそれぞれに、人に見せる姿とは別の生々しい葛藤を抱えていた。見えている世界と人の心の中の世界はかなり異なる。
「物語は人との間にしか生まれない」と木村さんはインタビューで語った。心を閉ざし、自分の心の中の安全な世界だけに生きている限り、物語は生まれないのだ。人と関わり傷つくことがあっても、それでも人と関わり続ける。それによって人は成長し、人生は進んでいく。それが、自分の人生のページを作っていくということ。
ホールは書店の中にある。劇場を出ると、そこには本がずらりと並ぶ。本たちがいつも以上に、親しく饒舌に語りかけてくる気がした。そして、もしかしたら人生を前に進める「わたしの書」に出会えるかもしれない、そんな気分になった。
そういえば、これは紀伊國屋書店創業100周年記念公演。人と本との距離をぐっと近づける素敵な企みだったのか……と気づいた。
【Information】紀伊國屋書店創業100周年記念公演『わたしの書、頁を図る』
図書館職員として何の変哲もない退屈な日々を送る柳沢町子。よく見かける利用者らの人物像や生活を妄想しては、また元の退屈な日常に戻る。しかし、自主映画を制作する青年の出現により、常連利用者たちの真の姿や想いを知ることとなり、激しく葛藤し、変化していく。誰もが持ちうるそんな葛藤を、新進気鋭の脚本・演出家がデジタルとアナログを融合し情感豊かに緻密に描き出す。表現力豊かな個性あふれる出演者たちの演技、歌、演奏も見どころ。
7月3日(金)~19日(日) 紀伊國屋ホール
作・演出・美術:小沢道成
出演:木村多江/味方良介 光嶌なづな 中井智彦/坂口涼太郎 猫背 椿
▼https://watashinosho.jp/▼
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構成・文/依田邦代
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