【豊臣兄弟!】胸が迫る北庄城の別れ、そして最強のライバル・徳川家康(松下洸平)と豊臣兄弟はどう対していくのか?
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志賀佳織
2026年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」。今まであまりスポットライトの当たることのなかった豊臣秀長を主人公に、戦国時代がどう描かれるのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第33回「北庄(きたのしょう)城の別れ」と第34回「最強のライバル」です。
第33回「北庄城の別れ」
織豊政権の歴史の中での大きな山場と言えば、やはり「本能寺の変」になるのだろうが、その後、羽柴筑前守秀吉(ちくぜんのかみひでよし/池松壮亮)が天下人に上ろうとしていく過程のさまざまな戦いや歴史上の事件には、カリスマである織田信長(小栗旬)を亡くした後の動揺や、大きな波の中で右往左往する人々の人間模様が垣間見えて、ここもまた見逃せないと個人的には思ってしまう。
今回は、前回の「賤ケ岳(しずがだけ)の戦い」で秀吉の軍勢に敗れた柴田勝家(かついえ/山口馬木也)が越前の北庄城に敗走し、その最期を妻である市(いち/宮﨑あおい)と迎えるという、特に人間ドラマとしては見逃せない展開である。柴田勝家を演じた山口馬木也の人気も相まってか、その前後メディアなどでは、「本能寺の変」をしのぐ勢いで取り上げられていて、山口自身も役柄に対する熱い思いや愛情を繰り返し述べていた。
天正11(1583)年4月、柴田軍が敗走してなお、秀吉は容赦ない攻撃を続けようとする。しかし、羽柴小一郎長秀(こいちろうながひで/仲野太賀)の脳裏には、城内にいる市や娘たちのことがある。「ここは使者を送り、降伏を促すべきじゃ」と進言するが、秀吉は烈火のごとく怒って反論、「ならぬ! 敵はあの鬼柴田ぞ、我らに降ることなどあり得ぬ」と手を緩める様子はない。「だが北庄城には」と言いかける小一郎を制するように、「先鋒を頼む」と、勝家とは浅からぬ因縁のある前田利家(としいえ/大東駿介)に命じる。北庄城に自身も駆け出そうとする小一郎を、秀吉は一喝する。「お前も腹を据えよ、小一郎!」
一方、その北庄城では、敗れて戻った勝家を市が迎え出る。「おかえりなさいませ。よくぞご無事で」。「すまぬ。そなたはすぐにここを離れよ」という勝家に、市は悠然と微笑んでこう返した。「お腹は減っておりませぬか」
すっかり人がいなくなった城で、勝家と市は膳を囲む。「侍女たちはみな逃がしましたので、私が作りました」と供された心づくしの料理を、勝家は静かに口に運ぶ。「すぐに羽柴の者どもが来よう。今はこんなことをしている時では」と焦りを滲ませる夫に、なお市は笑顔である。
先日、NHK「あさイチ」のプレミアムトークに出演していた山口に、宮﨑がビデオでコメントを寄せていたが、それによると、この場面の勝家は、市の料理を、最後、茶碗に残った米粒一つひとつを手でつまんで口に運んで食べたのだという。残念ながらその場面は放送ではカットになってしまったそうだが、そこに勝家の人柄や市に対する気持ちが表れていて感動した旨を話していて、それを聞いた山口がまた、そこまで見てくれていた宮﨑に感じ入っていたのが印象的だった。
このあと市が、「覚えていらっしゃいますか。私が浅井の家に嫁いだ日のことを」と思い出話をするが、物語の中では確かに、あの頃から勝家は市に対して特別な思いを寄せていた。しかし、あの信長の妹をまさか自身が娶るとは思ってもいなかっただろう。そして、幸せにすることが叶わないまま、今日に至ってしまった。「逃げよ、お市」と言わずにはいられない勝家の思いはよくわかる。しかし、市は毅然としてこう答えるのだ。「長政(ながまさ)殿もあなた様も、私には、もったいないお人でした。私はよい夫に恵まれました。もう十分でございます。私もともに逝きます」
その頃、秀吉たちは、北庄城に迫っていた。秀吉はこう言うのだった。「今しばらく待て。姫様方をお連れすると使者が参った」。それを聞いた蜂須賀正勝(まさかつ/高橋努)がこう尋ねた。「姫たちだけでよいのか」。たまらなくなった小一郎は「兄者‼」と叫んで、兄に迫った。しかし、秀吉もギリギリの思いをぶつけて、こう叫ぶのだった。「是非もないこと‼」
城内では、市が長女・茶々(ちゃちゃ/井上和)、初(はつ/田牧そら)、江(ごう/西川愛莉)を前に、最後の別れを告げていた。「一緒にお逃げください!」と懇願する娘たちに、市は「すまぬ。そういうわけにはゆかぬのじゃ」と答える。そして、自身が信長からもらったという守り刀を茶々に手渡す。「守り刀は己の身を守るためのもの。先んじて相手を傷つけるものではない。秀吉と刺し違えようなど、ゆめゆめ思うてはならぬぞ」
そして、茶々の手に触れて、こう言葉を遺すのだった。「そなたは生きて妹たちを守るのです。そなたがこの二人の守り刀となるのです。そしていつか、父上のようなお方と巡り会って、よい子を産むのです。さすれば、その子がきっとあなたたちを幸せにしてくれる。この母がそうであったようにな。姿はなくとも、触れることはできぬとも、母はいつもそばにおりまする」
茶々もそれを聞き、必死で涙をこらえながらこう答える。「我らのことは何も心配いりませぬ。上様と父上にお伝えくだされ。織田と浅井の血は我らが絶やさぬと。どうか見ていてくだされ」。市は「それでこそ私の娘じゃ。娘たちじゃ」と言うと、三人を抱き寄せた。「強く、しなやかに生きるのじゃぞ」
三人が城を離れたのを確認した秀吉の軍勢は、いよいよ城を攻め落としにかかる。今回の物語は、場内と場外を交互に描きながら進んでいくのが非常にリアリティがあって、刻々と迫る「その時」に向かって、こちらもハラハラドキドキしてくる。火矢も放たれ、いよいよ北庄城は追い詰められていく。
秀吉は猛々しく攻撃の命を出しながらも、小一郎には「お前は副将としてわしのそばを離れるでない!」とその動きを制する。しかし、その全身はぶるぶると震えていた。だが小一郎は、「すまぬ!」と言葉を遺して城内に走っていくのだった。
城では、勝家と市が向かい合って「最期」を迎えようとしていた。短刀を持ち、「さらばじゃ」と刃を自らに向けた市だったが、畳に血がポタポタと滴る。あっ、と思うと、それは市の血ではなく、その刃を握って止めた勝家の手から滴り落ちたものだった。「やはり、そなたを死なせることなどはできん。今一度、抗いましょうぞ。この勝家が最期までお守りいたしまする」。そう言うと、勝家は市の手を引いて、敵を迎え討ちに行くのだった。
勝家は左手で市の手を握りながら、右手の刀で追いかけてくる敵をバッタバッタと斬り倒すが、二人はどんどん追い詰められて、ついに最上階まで上っていく。その窓から見える美しい越前の景色。一瞬心を奪われそうになるも、すぐに羽柴勢が追ってきた。藤堂高虎(たかとら/佳久創)が「柴田殿、お覚悟を」と言うと、市が彼ら一人ひとりの顔を見渡して、かすかに微笑む。「頼もしいのう。みな良い顔をしておる」。勝家もとうとう刀を捨てた。「よう見ておけ」
そこに、階段を息せき切って小一郎が駆け上がってきたが、「これが戦じゃ」と勝家が言ったかと思うと、二人は手を繋いだまま、天守の窓から飛び降りたのだ。瞬間、鳥が羽ばたく音が響き、市の打掛がひらひらと鮮やかに青空の下、舞い降りていった。
夕方、「ようやった、勝ちどきを上げよ!」と言う秀吉の目にも、利家の目にも光るものがあり、秀吉は耐えきれずに嗚咽するのだった。
小一郎は焼野原にいた。呆然と徘徊するように歩いていると、目の前に2匹の蝶がヒラヒラと目の前を舞うように過ぎていく。たまらなくなった小一郎は、ただ大声を出して悔やむしかなかった。
織田信長の三男・信孝(のぶたか/結木滉星)は自害させられ、秀吉は長男・信忠(のぶただ/小関裕太)の忘れ形見である三法師(さんぼうし/清水伊織)を自らの庇護下に置き、次男・信雄(のぶかつ/山脇辰哉)の補佐役となって戦後処理を行った。
浅井三姉妹も秀吉に引き取られることとなった。その城に入った三姉妹に秀吉は、「これから姫様方のお世話をする者にお引き合わせいたしまする。ついてこられよ」と言って、廊下を案内する。秀吉のすぐ後ろを進む茶々は、その背中を見ているうちに、思わず懐の守り刀に手をやってしまう。しかし、そのとき1匹の蝶が現れて、秀吉の肩に止まった。茶々の頭の中に母の言葉が響く。「母はいつもそばにおりまする」。茶々は刀を納めた。
引き合わされたのは、秀吉の妻・寧々(ねね/浜辺美波)である。「お待ちしておりました。寧々と申しまする」という寧々の挨拶にも、姉妹は固い表情を崩さず、一言も発しようとはしない。すると、寧々の鋭い声が響いた。「名を名乗りなさい。それが礼儀というものです。あなたのよからぬ振る舞いは、お市様の名を汚すことにもなるのです。私はお市様が大好きでした。そのお市様の大切な姫様方を預かるのです。決してつらい思いはさせません」
その言葉にハッとした茶々は、初めて頭を下げてこう述べた。「浅井長政と市が娘、茶々にござります」。妹たちもそれに続いた。「初と申します」「江と申します」
一方、小一郎は京都の大徳寺(だいとくじ)に籠ったまま、家に戻ろうとはしなかった。頭の中には「そなたにはあるのか。今の兄をまことに支える覚悟が」という、生前の市の言葉が巡っている。そんな折、廊下で拭き掃除をしていた小一郎は、歩いてきた人とぶつかり、その持っていた器を割ってしまう。その人こそ、茶人の千宗易(せんのそうえき/吉岡秀隆)であった。
茶室で向き合った宗易に、小一郎は、なぜ一石にも匹敵するような茶碗が壊れても、そんなに笑っていられるのかと尋ねた。宗易は懐からとっておきの菓子を取り出してこう言うのだった。「この甘さを引き立たせるために、この苦い茶飲んでるねん。この先にこんなええもんが待ってると思ったら、割れた茶碗直すのも、苦い茶すするのも楽しいやないか」
小一郎は、中村を出たときの自分たちの姿を思い起こしていた。そこへ、妻の慶(ちか/吉岡里帆)が夫を迎えにやってきた。「次からは、苦しむなら私の前で苦しんでください。私たちは夫婦なのですから。何でも力になりますから。もっと私を頼って」
城に帰った小一郎は秀吉に頭を下げ、こう伝える。「たやすい道のりでないことはわかっておる。手を血に染めることも避けては通れないであろう。じゃがそれでも、その先に皆が笑って暮らせる世があるのなら、天下一統も楽しき道のりではないか。だから兄者、笑おう」
後日、皆を集めた宴の席に現れた二人の頭には、月代(さかやき/額から頭頂部にかけて頭髪を剃り上げた部分)ができていた。そして秀吉は、自らが天下人になると家臣たちに正式に告げた。「百姓だったわしが天下人になれば、日の本中があっと驚くであろう。わしは皆に夢を見させてやりたいのじゃ。百姓も侍も、ともに笑って生きられる世をつくる」。家臣たちも、やっと聞けたその言葉に、改めて志をともにするのだった。
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