【朝ドラ 】ライター田幸和歌子が語る【舞いあがれ!】「なぜ舞ちゃんがおバカでドジな子になった?」
舞ちゃんはどうなる⁉︎ わくわくしながら朝ドラを見るのが1日の始まりの習慣になっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!
東大阪で生まれたヒロイン岩倉舞(福原)が、長崎・五島列島に住む祖母や様々な人との絆を育みながら、パイロットとして空を飛ぶ夢に向かっていくNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第8週目。
今週から「航空学校編」のスタートに伴い、脚本家や制作スタッフなどが新たに「航空学校編チーム」として結成されたそうだが、驚いたのは、その初日。月曜分のたった15分が放送された時点で、SNSでは第7週まで絶賛の嵐だった評価が、一気に批判だらけに変わったのだ。
多くの視聴者が面食らったのは、突然の画面分割や、空っとぼけたBGMなど、わかりやすいコメディ演出が入ってきたこと。その一方で、7週までに積み上げられ、すでに視聴者の「共通認識」になっていた舞やその周囲の人物像、世界観が別モノになったように見えた。
「航空学校編」はテイストも一新し、学園モノの雰囲気で、なおかつコメディタッチで描くという挑戦には、戸惑いはあるが、新たな味わいとして楽しみたいと思った。しかし、残念なのは、東大阪でも五島でも、近所の人々や舞の大学のサークルの面々などにも、「モブ」が一人もおらず、それぞれのキャラクター性や背景が見えていたのに、8週目ではそれが見えないこと。
第7週目までと大きく環境が変わり、所属する場所の関係上、知り合う人々も必然的に「持てる人々」側が多数派になるというのは興味深いポイントではある。
その中で、航空一家で育ったエリート・柏木弘明(目黒蓮)や帰国子女の矢野倫子(山崎紘菜)、妻子持ちで役場勤めを退職した中澤真一(濱正悟)、母一人子一人の苦学生・吉田大誠(醍醐虎汰朗)、有名スーパーの社長の息子・水島祐樹(佐野弘樹)と、経済格差はより広がっている。
その設定自体はリアルで期待大だが、残念だったのは、環境が変わったことで、舞が突然、昔からドラマでよく描かれる「おバカでドジな子」になってしまったこと。舞は公立小中高から現役で公立大に入学しているだけに、基礎学力は確かなはずだし、情熱で後先考えずに突っ走るエネルギッシュなヒロインと違い、ドジどころか、むしろ慎重に念入りに準備をするタイプだったはずだ。そんな舞が「勉強のできない子」にされたことで、第7週までの舞をひどく侮辱されたような気分になってしまう。
それだけに、ルームメイトの矢野倫子(山崎紘菜)が夜な夜な男子の先輩の部屋に勉強を教えてもらいに行き、舞に要領よくなれと説教をたれるのも、世間知らずの無防備お嬢ちゃんの戯言に聞こえる。
もう一つ残念だったのは、本来なら視聴者の大多数が応援するであろう吉田学生が、母親の看病で1カ月授業を休み、退学の危機に瀕した展開で、さほど胸が痛まなかったこと。さらに、吉田学生のレポートを見たグループのメンバーたちが教官に直談判に行き、特別テストを受けさせてもらうことになり、無事合格して次の段階に全員で進むという展開にも、あまり心が動かなかったこと。冷酷だとは思いつつも、なにせ彼らのことをよく知らないし、まだ愛着もないのだから仕方がない。
ただ模型飛行機が、ばらもん凧が、スワン号が舞いあがっただけで、あるいはなにわバードマンたちが飛行機の絵を見ながら、好きな飛行機の話を口々にするだけで、わけもわからず流れた涙や鼻水が、不思議と引っ込んでしまった。
これは駆け足の1週間だったためか。しかし、できれば舞がコーヒーをひっくり返したり、カバンを忘れて取りに帰ったり、倫子を尾行したりする尺を、もう少し航空学校のグループの面々の丁寧な描写に割いてもよかったのではないか。
個人的に経験則として、朝ドラでは「イケメンゾロゾロ」や「恋バナ」展開が始まると嫌な予感で胸騒ぎがしてしまうのだが、できれば「航空学校編」の面々もみんな好きになりたい。毎日と言わずとも、週1回くらいは心揺さぶられたい。そんな祈りにも似た思いを抱く第8週だった。