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【中野翠のCINEMAコラム】仕事、子育て、介護、疲れ果てた主人公がすがったものは……『それでも私は生きていく』

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中野翠

ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト、中野翠さんが、おすすめする映画について語ります。仕事、子育て、病気の父親の介護、疲れ果てた主人公がすがったものは、新たな恋……。世界的な人気俳優レア・セドゥが、ひとりの女性の心の機微を繊細に描くフランス映画です。

マチュア世代のみなさんなら、大なり小なり親の介護体験があるのでは⁉︎

『それでも私は生きていく』の主人公・サンドラ(レア・セドゥ。妖精少女のようだった彼女も今や37歳)は通訳者として働いているシングル・マザー。8歳の娘リンとパリの小さなアパートで暮らしているのだが、昔は哲学の教師をしていた立派な父親が神経変性疾患をわずらうようになって、さあ、大変!

その神経変性疾患とは、徐々に視力を失ってゆくのだという。サンドラは、たびたび見舞いに行くのだが……。

頭脳明晰だった最愛の父が視力と記憶を失ってゆく姿を見るのは、とても辛いことだった。

そんな最悪な気分の中、サンドラは偶然、昔の友人・クレマン(メルヴィル・プポー)と出会う。彼は宇宙科学者になっていた。仕事や子育てや父親の介護に疲れ果てていたサンドラは、しだいに妻子持ちのクレマンに惹かれてゆくのだが......という話。

「死」を象徴するような父親と「生」を象徴するようなクレマン。サンドラがクレマンに惹かれてゆくのは当然のことなのだろう。無意識のうちに「生」に、しがみつきたい と感じていたのだろう。ホンモノの恋というわけではないのかもしれない。さて、サンドラの決断は?

サンドラの娘のリンは母親の様子を黙って見ているのだけれど、ウッスラと気づいているように思える。

親子愛、異性愛——その微妙な心理が描かれてゆく。さすがフランス映画、なおかつ女性監督(ミア・ハンセン=ラブ)ならでは、と思わせる。

『それでも私は生きていく』

●監督・脚本/ミア・ハンセン=ラブ
出演/レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン 他
新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座 他 全国順次公開中(フランス 配給/アンプラグド)

さて、もう1本。アメリカ映画『TAR/ター』も必見。ドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者になったリディア・ター(注 実在の人物ではない)の物語。

リディア・ターを演じるのはケイト・ブランシェット。知的な顔立ちの「演技派」なので、役柄にピッタリ。拡張高い上品映画かと思ったら、意外にも、なまなましく妖しい感触もある映画なのだった。長めの上演時間も苦にならず……。

※この記事は「ゆうゆう」2023年6月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

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